第四章 龍と人

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蒼穹に咲く花火が龍を包み込み、火と爆発でその身を削っていく。大砲や投石機(かたぱると)大礫(おおつぶて)では削れもしなかった硬い鱗が崩れ剥がれていく。剥がれた鱗より巨大な雨粒を思わせる血が垂れ落ちる。垂れ落ちる血は花嫁の白無垢を思わせる程に白いものだった。武士(もののふ)は驚き、家康より受けていた指示を総員に伝える。 「者共! あの白い血は人が受け入れることを許さぬ血! 浴びれば死に至らしめる! 決して触れたり飲むことはならん!」 花火は容赦無く上げられる。花火の連続攻撃に耐えることが出来なくなってきたのか、龍の浮かび上がる高度が下がってきた。武士(もののふ)が次なる指示を伝える。 「総員退避ーッ! 火薬樽! 投下!」 紀尾井坂の上にて並べられていた大八車が全て蹴落とされる。大八車の上には樽がギッシリと詰められており、火の点いた導火線が付けられていた。その導火線は紀尾井坂の下に着くと同時に中に樽一杯に詰められた火薬へと引火するように計算された長さである。 火薬であるが、家康が天下泰平を成した後に玉山金山(奥州平泉)、佐渡金山(佐渡ヶ島)、今庄金山(越前)の金山より硝石を集め、火薬を抽出したのだった。金掘り衆は「金よりも硝石なんて石っころが欲しいだなんて変わっているな」と、家康に疑問を覚えていたと言う。 三つの金山から掘り尽くされた硝石は火薬へと生まれ変わり、家康の命にてずっと江戸に保管されていた。来るかどうかも分からない臥龍丸への備えの為に…… 火薬は龍の真下にて爆発した。龍の体全てを飲み込む程の巨大な火の玉が襲いかかる。当然、龍の真下の地面も大惨事、爆発によって起こった爆風によって辺り一帯は更地と化してしまった。爆風と言うものは爆心地より炸裂した後は上へ上へと昇って行くもの、龍の真下にいたものは予め掘っておいた穴へと飛び込み、爆風の難を免れたのだった。 一人の武士(もののふ)が穴より這い上がった。爆音で耳がぼわんぼわんとし、頭もぼーっとする中、状況確認を行う。すると、一陣の風が吹き、爆発によって発生した土埃を一気に振り払った。晴れた土埃の先にあったのは地に伏せる龍の姿だった。武士(もののふ)は地へと落ちた龍を一瞥し、未だに耳がぼわんぼわんとし自分が何を言っているかも分からないまま勢いで叫んだ。
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