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総大将が「我の天下統一の野望もここまでか」と溜息を吐いた瞬間、龍が本陣に向かって兎の如き紅き目を総大将に向けた。そして、河を泳ぐ蛇のように、未だに硝煙や人だったものが天へと立ち昇る黒雲を切り裂き、天を突き抜け泳ぎ来るのであった。
龍が本陣へと辿り着いた瞬間、龍は瞬時に元の男の姿となり、総大将の前に降り立つ。男は総大将の前で太刀を引き抜いた。そして、穏やかな口調で尋ねた。
「野中国は河本家、総大将の河本太平丸であられるか?」
「う…… うむ…… 確かに余は河本太平丸である」
「野中国は本日を以て我が羽柴家のものとなる。貴様がそれを知ることはない。それを伝えにきた」
「そ、そなた…… 羽柴家の者か。何ということだ…… そなたのような龍神様が羽柴なぞと言う成り上がりの農民如きに味方するとは。世も末だ」
「よく言ったものだ。だがな、応仁の大戦以降、威張り散らす武士が増えて以降はずっと世も末だと思うのだがな」
男は引き抜いた太刀を太平丸に向かって振り抜いた。河本家の嫡子として厳しく逞しい戦上手に育てられた太平丸はこれまでずっと傷の一つも付けられることはなかった。何度か出陣した戦場でも自らの武士としての能力に加え、優秀な軍師や武士によって守られてきた。だが、今回は相手が悪かった。相手にしたのは人ではなく、神も同然の龍。どれだけ戦上手であろうと、巨大な龍を相手にしては刀も鉄砲も戦術も戦略も通じない。圧倒的な力を前に河本家は敗北したのである。
「さて、首級の方、仕る」
男は絶命し倒れた太平丸の首に太刀を振り下ろし、刎ねた。そして、負け戦となり脱兎の如く戦場から逃げ行く武士達に高らかに宣言する。
「聞けぇいッ! お主らの総大将である河本太平丸の首級はッ! この『地伏臥龍丸(ちぶせ がりゅうまる)が討ち取ったりぃぃぃ!』
戦場はどれだけ人が討たれようと、最後の勝利が決まるのは総大将の首を討ち取るか、総大将が降参した時となる。逃げ行く武士達は総大将である太平丸の死を知り、自分達の負けを確信し、力なく項垂れるのであった。
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