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魔王の気紛れ
気を失い、その場で崩れた人間。
娘を担いだまま移動した。
魔王は『魔の森』の出入り口から奥へ…
更に行った中間地点ぐらいにある『廃村』に来た。
いつも居るような『奥地』は流石に連れて行けないと。
簡単に考えての判断だった。
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この廃村も、かなり昔。
低級な魔物や魔族に滅ぼされ人々からも『放置された』まま。
結局は『魔の森』の拡大と共に呑み込まれた一部である。
今は『魔の森』の周辺には村も街もない。
かなり古い時代の建築物にも関わらず。
未だに原型も僅かに留めてるのも『簡単な理由』だった。
人間からも見放された事。
また人間の造った物に興味を示す魔族は少ない事からだ。
『魔の森』の奥深くにある訳ではないが。
少なくとも『魔の森』の入り口よりも更に奥へ。
入って来なければならない場所にある為、ただの人間は…
単純に簡単へ『辿り着く事』も出来ない場所なだけでもある。
魔王は『その廃村』を思い出し、娘を連れて来た。
『魔の森』で人間を抱えて居たとしても…
『魔王である者』の側に他の魔族の類いは近付いて来る筈もないのだ。
魔王は天井の崩れ落ちていない建物の一角。
そこに娘を降ろし、改めて見た。
「致命傷の怪我がある訳でもないようだが。」
誰に尋ねる訳でもなく若干、首を傾げる。
それが、また人間臭い仕草だったりもするのを魔王自身は気付いてない。
ただ、血まみれに汚れて眠っている為…
『小柄な娘』である事以外には良く判らない。
魔王は娘を気に入ったから、ここまで連れて来た訳でもなかった。
半分は興味、残りが『暇潰し』と言った方が正しい。
ちょっとした『気紛れ』と言うぐらいにもなる。
退屈な日々の中での些細な気紛れ。
それが『人間観察』という形に繋がったのだった。
(人間は休む時、どうするんだったか?)
しばらく考えた後、魔王は天井へと建物の塀。
一番高い所まで簡単に跳び、周りの木々を眺めた。
また、そこでも考える。
そして強靭な脚力と速度で木々の方へ移った。
木の上に覆い茂る葉を何枚も引き千切る。
数度、繰り返す。
たくさんの大きめな葉を手に、すぐ娘の建物へ戻る。
それを敷き詰めて…
更に台になるようにしてから娘を、そこに寝かせた。
(確か、人間の寝床は…
こんな感じだったな。)
魔王と言う称号が当て嵌まるように…
知能も尋常じゃなく高い。
だから人に化ける事すら簡単。
魔王にとって難しい事でもなかった。
過去に何度も人間に化けて街や村を見学した事もあった。
だから人間が生きる上での食べ物や環境など、『知識』としてならば多少はあるのだ。
更に試す意味でと『人間の女』にもだった。
『魅了』を使って拐かした事もある為、充分、身体に関してならば…
『知ってる事』も、また多いのだが。
流石に『小娘』相手では魔王も、そんな気すら起きないだけだった。
そもそも人間は知っているが、『子供相手』など経験もない。
まして『人間としっかり話した事』なども殆どなかった。
(まぁ、所詮、女も『魅了』を使えば言いなりだしな。
男も所詮、術でも使えば『精神を壊す』のも簡単だ。
だが、『子供』は全くないな?
もう人間にも飽きたから、かなり関わっても居ないが…)
そんな『気紛れ』から何十年ぶりに『一人』でない事への違和感と…
『初めての感情』を知る事になるのだが。
『それ』が何と言われる『感情』なのかを。
まだ魔王が知るのは、かなり先の事も当然だった。
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魔族からの襲撃から数時間、経っても…
娘が目を覚ます気配はない。
呼吸をしている事、死んでない事は確認済み。
連れて来たが魔王は、ふと気付く。
(何も考えてなかったが、起きた時か?)
娘が起きてから…
どうするかを余り深く考えてなかった。
また魔王は若干、考える。
他に用意する物が人間はあった事に思い当たる。
(人間に必要な物を調達してくる必要がある。)
その為に娘を寝かせた建物へと『二重結界』を、すぐ張った。
(今は、まだ俺が居る事で魔族も近付いて来ないが。
こんな場所に、ただの人間が居れば…
自ら食べて下さいと言ってるようなものだろう。)
魔王は、また首を傾げて呟く。
「人間風に例えるならば…
狼の大群の中に小さな兎を入れる。
だっただろうか?」
(少し違ったか?
随分、昔に一度だけ聞いたが。
もう思い出せないか…)
同時に気配は遠くても魔王が『人間を連れて来た事』に…
興味を示して観察するような気配も気付く。
低級~上級と魔力然り、知能指数も、かなり違う事。
更に上の高位魔族ならば、その知能も高いのだ。
(だが、観察している気配ならば…
これは低級でもないな。
中級からだろう。)
自分が離れた隙にと狙って来る事を見越しての『二重結界』を。
魔王は意識のみ集中して、魔力を使って構築もした。
辺り一面、青白い光りが包み込むように強くする。
娘の周りを囲うようにと『立体形で透明な硬い壁』を造った。
そして更に娘の居る建物へとの『結界』を同じように造る。
一応、その『強化結界』を確認する。
簡単に壊れない事を確認してから、その場から飛行魔法を使い空へ。
魔王も浮かび上がってから移動する。
そんな魔王が使う全ての術も含め『高度な技術』な為、実際に使える魔族も居ない。
常に一人が当たり前な事もあり、判らないだけの事だった。
実際は魔族同士でも知られてないのが現状である。
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魔王は魔の森の奥地へと移動した。
小川の側に立つと一気に大岩を持ち上げ、小川の方へ数十と飛ばした。
かなり荒っぽいやり方だが…
小川の形を歪め、塞き止めた事によって数カ所は泉と川の流れを。
強引に廃村の方へと変えた。
しばらくすれば勝手に川の流れが廃村の方へ流れるよう…
水は人間に限らないと、他の動物にも必要不可欠なものだと判断したからだった。
そのままで魔王は、また若干、考えながら呟く。
「人間の…
女用の服が必要か。
後は食料ぐらいだろうか?」
(食料…
果実なら手に入るが。
それは『人間』も食べれる物だっただろうか?)
どうにも答えが出ない。
流石に魔族が『人間の娘』へと必要な物を考えるにも限界はある。
「食事の好みに関しては直接、聞くにしても。
衣服か…」
再び魔王は飛行して『魔の森』から若干、外れ南下して行く途中。
数人の商人達が大国方面に向かう『荷馬車』を発見した。
魔王には好都合だった。
その荷馬車含め、加減を間違えないよう商人達一行へ向かって突風を巻き起こす。
巻き込まれた商人達を吹き飛ばし…
『荷馬車』を全て強奪したような形になったのを見ると生きてた事は判る。
(これでも手加減したが…
一応、死んでないだけ充分マシだろう。)
ただ普通に、そう思うだけでもある。
そのまま『魔の森』へと一気に加速してから荷馬車なども廃村の側で降ろす。
荷台を覗くと、かなり多くの衣服や道具もあり部屋へ移した。
一通り揃った事に、とても満足感が得られた魔王は若干、機嫌が良かった。
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完全な予想外な点が一つ…
それは『馬まで』一緒に連れて来てしまった事だった。
普通ならショック死しても、おかしくないだろうが。
生きていたのは偶然でもある。
魔王も全く考えてなかった。
(まぁ…
あっても、なくても、これは構わないだろう…)
そして一定エリアに結界を張り娘の所へ戻るのだった。
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