魔王の気紛れ

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魔王の気紛れ

気を失い、その場で崩れた人間。 娘を担いだまま移動した。 魔王は『魔の森』の出入り口から奥へ… 更に行った中間地点ぐらいにある『廃村』に来た。 いつも居るような『奥地』は流石に連れて行けないと。 簡単に考えての判断だった。 ************************** この廃村も、かなり昔。 低級な魔物や魔族に滅ぼされ人々からも『放置された』まま。 結局は『魔の森』の拡大と共に呑み込まれた一部である。 今は『魔の森』の周辺には村も街もない。 かなり古い時代の建築物にも関わらず。 未だに原型も僅かに留めてるのも『簡単な理由』だった。 人間からも見放された事。 また人間の造った物に興味を示す魔族は少ない事からだ。 『魔の森』の奥深くにある訳ではないが。 少なくとも『魔の森』の入り口よりも更に奥へ。 入って来なければならない場所にある為、ただの人間は… 単純に簡単へ『辿り着く事』も出来ない場所なだけでもある。 魔王は『その廃村』を思い出し、娘を連れて来た。 『魔の森』で人間を抱えて居たとしても… 『魔王である者』の側に他の魔族の類いは近付いて来る筈もないのだ。 魔王は天井の崩れ落ちていない建物の一角。 そこに娘を降ろし、改めて見た。 「致命傷の怪我がある訳でもないようだが。」 誰に尋ねる訳でもなく若干、首を傾げる。 それが、また人間臭い仕草だったりもするのを魔王自身は気付いてない。 ただ、血まみれに汚れて眠っている為… 『小柄な娘』である事以外には良く判らない。 魔王は娘を気に入ったから、ここまで連れて来た訳でもなかった。 半分は興味、残りが『暇潰し』と言った方が正しい。 ちょっとした『気紛れ』と言うぐらいにもなる。 退屈な日々の中での些細な気紛れ。 それが『人間観察』という形に繋がったのだった。 (人間は休む時、どうするんだったか?) しばらく考えた後、魔王は天井へと建物の塀。 一番高い所まで簡単に跳び、周りの木々を眺めた。 また、そこでも考える。 そして強靭な脚力と速度で木々の方へ移った。 木の上に覆い茂る葉を何枚も引き千切る。 数度、繰り返す。 たくさんの大きめな葉を手に、すぐ娘の建物へ戻る。 それを敷き詰めて… 更に台になるようにしてから娘を、そこに寝かせた。 (確か、人間の寝床は… こんな感じだったな。) 魔王と言う称号が当て嵌まるように… 知能も尋常じゃなく高い。 だから人に化ける事すら簡単。 魔王にとって難しい事でもなかった。 過去に何度も人間に化けて街や村を見学した事もあった。 だから人間が生きる上での食べ物や環境など、『知識』としてならば多少はあるのだ。 更に試す意味でと『人間の女』にもだった。 『魅了』を使って拐かした事もある為、充分、身体に関してならば… 『知ってる事』も、また多いのだが。 流石に『小娘』相手では魔王も、そんな気すら起きないだけだった。 そもそも人間は知っているが、『子供相手』など経験もない。 まして『人間としっかり話した事』なども殆どなかった。 (まぁ、所詮、女も『魅了』を使えば言いなりだしな。 男も所詮、術でも使えば『精神を壊す』のも簡単だ。 だが、『子供』は全くないな? もう人間にも飽きたから、かなり関わっても居ないが…) そんな『気紛れ』から何十年ぶりに『一人』でない事への違和感と… 『初めての感情』を知る事になるのだが。 『それ』が何と言われる『感情』なのかを。 まだ魔王が知るのは、かなり先の事も当然だった。 ************************** 魔族からの襲撃から数時間、経っても… 娘が目を覚ます気配はない。 呼吸をしている事、死んでない事は確認済み。 連れて来たが魔王は、ふと気付く。 (何も考えてなかったが、起きた時か?) 娘が起きてから… どうするかを余り深く考えてなかった。 また魔王は若干、考える。 他に用意する物が人間はあった事に思い当たる。 (人間に必要な物を調達してくる必要がある。) その為に娘を寝かせた建物へと『二重結界』を、すぐ張った。 (今は、まだ俺が居る事で魔族も近付いて来ないが。 こんな場所に、ただの人間が居れば… 自ら食べて下さいと言ってるようなものだろう。) 魔王は、また首を傾げて呟く。 「人間風に例えるならば… 狼の大群の中に小さな兎を入れる。 だっただろうか?」 (少し違ったか? 随分、昔に一度だけ聞いたが。 もう思い出せないか…) 同時に気配は遠くても魔王が『人間を連れて来た事』に… 興味を示して観察するような気配も気付く。 低級~上級と魔力然り、知能指数も、かなり違う事。 更に上の高位魔族ならば、その知能も高いのだ。 (だが、観察している気配ならば… これは低級でもないな。 中級からだろう。) 自分が離れた隙にと狙って来る事を見越しての『二重結界』を。 魔王は意識のみ集中して、魔力を使って構築もした。 辺り一面、青白い光りが包み込むように強くする。 娘の周りを囲うようにと『立体形で透明な硬い壁』を造った。 そして更に娘の居る建物へとの『結界』を同じように造る。 一応、その『強化結界』を確認する。 簡単に壊れない事を確認してから、その場から飛行魔法を使い空へ。 魔王も浮かび上がってから移動する。 そんな魔王が使う全ての術も含め『高度な技術』な為、実際に使える魔族も居ない。 常に一人が当たり前な事もあり、判らないだけの事だった。 実際は魔族同士でも知られてないのが現状である。 ************************** 魔王は魔の森の奥地へと移動した。 小川の側に立つと一気に大岩を持ち上げ、小川の方へ数十と飛ばした。 かなり荒っぽいやり方だが… 小川の形を歪め、塞き止めた事によって数カ所は泉と川の流れを。 強引に廃村の方へと変えた。 しばらくすれば勝手に川の流れが廃村の方へ流れるよう… 水は人間に限らないと、他の動物にも必要不可欠なものだと判断したからだった。 そのままで魔王は、また若干、考えながら呟く。 「人間の… 女用の服が必要か。 後は食料ぐらいだろうか?」 (食料… 果実なら手に入るが。 それは『人間』も食べれる物だっただろうか?) どうにも答えが出ない。 流石に魔族が『人間の娘』へと必要な物を考えるにも限界はある。 「食事の好みに関しては直接、聞くにしても。 衣服か…」 再び魔王は飛行して『魔の森』から若干、外れ南下して行く途中。 数人の商人達が大国方面に向かう『荷馬車』を発見した。 魔王には好都合だった。 その荷馬車含め、加減を間違えないよう商人達一行へ向かって突風を巻き起こす。 巻き込まれた商人達を吹き飛ばし… 『荷馬車』を全て強奪したような形になったのを見ると生きてた事は判る。 (これでも手加減したが… 一応、死んでないだけ充分マシだろう。) ただ普通に、そう思うだけでもある。 そのまま『魔の森』へと一気に加速してから荷馬車なども廃村の側で降ろす。 荷台を覗くと、かなり多くの衣服や道具もあり部屋へ移した。 一通り揃った事に、とても満足感が得られた魔王は若干、機嫌が良かった。 ************************** 完全な予想外な点が一つ… それは『馬まで』一緒に連れて来てしまった事だった。 普通ならショック死しても、おかしくないだろうが。 生きていたのは偶然でもある。 魔王も全く考えてなかった。 (まぁ… あっても、なくても、これは構わないだろう…) そして一定エリアに結界を張り娘の所へ戻るのだった。
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