日常

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日常

「でさ、ヒースはどっちが好みよ?」 そこにいたのは僕と伊吹の他に3人。その全員が僕の方を見ていた。 どっちが好みと問われても話を聞いていなかったので分からない。 僕としては何の話題であってもどうでもいいのだがそんな事は顔に出さずにっこりと笑って訊き返した。 「どっちって?」 「―――かーだからモテる男は嫌だね。こんな話興味ないってか」 「そんな事ないよ。ごめん。何の事だった?」 どうでもいいとはいえトラブルは困るので、小首を傾げ悪気のなさをアピールしておく。 僕の見た目のせいである程度目立ってしまう事は諦めているが、無用なトラブルは避けできるだけ平穏に生活を送りたいのだ。 「しょうがないなぁー。ヒースにそんな顔されたら許しちゃう。んと、うちの学校で人気の女子のどっちがいいかって話だよ」 「あ、ああそうなんだ。へー。えーと……うーん、うーん?」 人気のと言われても誰の事なのか全く分からない。片方は髪が綺麗だとかもう片方は胸が大きいだとか伊吹以外の3人が自分たちがいいと思えるところを並べたてるが、まったくどれもこれも惹かれるものはない。 どう答えようかと困っている僕の肩にぽんと手を置く伊吹。どうやら助け船を出してくれるようだ。 ホッと小さく息を吐く。 「伊吹は俺の事が好きなの。だからどんなに美人でも可愛くても俺にメロメロなわけだからさ、どうでもいいわけよ」 え?いや?何? めっちゃあさっての方向に話持って行ったよね? 慌てる僕の耳元で伊吹が「この方が面倒がないから話合わせて」と囁いた。 「えー?マジでー?お前たちってなの?」 そう、とは?所謂BLってやつ? 僕は別に―――。 だけど、否定するのも確かに面倒だ。 この疑いの目で僕たちを見るこいつはなかなかに面倒なヤツなのだ。 ここでどっちかを選べば今日のうちにその話は全校生徒の知るところになり、その翌日には選んだ方の子と僕は付き合う事になるわけだ。 付き合うとか付き合わないとか、そんな面倒な事僕はしたくなかった。 何しろ僕には人には言えない大きな秘密がある。それは誰にも知られてはいけない秘密で、必要以上に親しい人間を作り秘密がバレてしまう危険を冒したくはなかった。はもっとひっそりと過ごしていたのに、伊吹がそれを許さなかった。何かと僕に纏わりつき世話を焼きたがる。まぁ幼馴染みで親友だし? 僕の抱える秘密云々を伊吹は知らないが、誰とも付き合う気がなくこういう事を面倒に思っている事を伊吹は気づいているのだろう。だからこそのあの助け船だったんだと思う。 伊吹も別に男が好きだとか僕の事が好きって事ではない。 だって僕を見る瞳にある種の熱は乗っていない。 僕にはその手の事はすぐに分かるから。 というわけで伊吹の話はいつもの面倒見の良さからくるものだと分かる。 だから僕も深く考えるのを止めて伊吹の嘘に乗る事にしたんだ。 「そうなんだよね。僕伊吹の事愛しちゃってるからさ、女の子がーとか伊吹以外どんなに可愛くても美人でも眼中にないんだ」 「ほえーマジの話だったんだー。ああ、でもそれイイネ!なんてったって女子人気の高いお前らは俺たちの敵じゃないって事だろ?」 「ああ、そうなー。そういう事じゃん」 「うぇーい」 僕と伊吹以外の三人はそう言ってハイタッチし合っている。 こいつらも悪いヤツではないけど、こういうところはどうも馴染めない。 僕が…………だから、か? あ、いや、伊吹も笑顔ではあるが微妙な顔をしているし、僕っていうよりこいつらが変なんだな。 なんとか収まってほっと息を吐くと伊吹は僕を見ていて、三人に気づかれないようににぃと笑った。 僕たちは概ねこんな感じで過ごしていた。 三人がどうでもいい事で騒ぎ、僕が困っていると伊吹が助けてくれる。 ――――はぁ……なんてばからしくて愚かなヤツら――――。 僕は笑顔の下でそんな事を思っていた。
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