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本気?①
最近の僕は少し不安定だ。
胸がざわざわと騒ぎ、それを抑えるように血を吸いたくて牙がうずくのだ。
いつもは何ヶ月も血を吸わなくてもなんともなかったのに、どうしても吸血衝動を抑える事ができない。
夜な夜な夜を歩き人を襲う。昔と違ってその代償として願いを聞く事はない。
夜渡り人の存在を知られてはいけないというのもあるが、ここに僕が居る事への違和感を持たれないようにしたりとそれなりの人数の記憶を操作するだけでいっぱいいっぱいなのだ。不審者の噂が立ってしまったのもここ最近の頻繁すぎる吸血に記憶操作が間に合っていない証拠だろう。
昔の夜渡り人は吸血の代償をきちんと渡していた。それが相いれない者たちが共生する条件だったからだ。それを僕は完全に無視して生きてきた。
自分の都合で自分だけの為に力を使い、対価も払わず一方的に奪う。
こんな自分勝手な僕だけど、ひとつだけ決めている事があった。
人の血は吸うが繁殖行為は行わないという事。
それは愚かな行為だと思っている。その証拠に父の愚かな行いの結果が僕の今なのだから。
僕らは確かに永劫の時を生きるが、もし、もしも僕が何らかの事故で命を落とした場合、子どもや伴侶はどうなる。あの男のように僕のように残された方は堪ったもんじゃない。
だから僕はひとりでも平気だと、平気じゃなきゃいけないんだ。
それが自分勝手に生きる僕の贖罪なのだから。
*****
夜、闇に紛れて錆びれた公園に影がふたつ。
ベンチに座る男とその膝の上で跨るように座る僕。
吸血時にシャツを血で汚してしまわないようにシャツを脱ぎ、上半身を闇に晒す。目の前には男の美味しそうな首。そこに牙を沈め血を啜る。
ああなんて甘露。最近の血は特に甘く感じる。
この味を知ったならやめる事などできるわけがない。
勿論食事としての欲求もあるが、血を啜る行為は快楽を得る事でもあった。
快楽に震える身体。
はぁあああ……。
ガサ。
小さく聞こえた音と誰かの気配。
ゆっくりと音がした方を振り向くと目を見開きこちらを見ているあいつがいた。
本来ならあいつに力を使い今見た事を忘れさせなければいけなかった。
だけど僕はなぜかあいつに全てを知って欲しいと思った。
その上でどうするのか興味があったのだ。
僕は夜渡り人、伊吹はそれを知ってどうする?
*****
伊吹は僕が微笑むと少しだけ頬を朱に染めた。
が、すぐに視線を逸らしツカツカと近寄って来て無言で僕を男から引きはがした。そして自分が着ていた上着を脱ぐとすぐさまそれを僕に着せた。上着に残る温もりに僕のある部分がゆるりと立ち上がるのを感じた。
それを気づかれたくなくてできるだけ身を丸め黙っていると、「送る」とだけ言いそのまま僕を横抱きにして歩き出した。おんぶじゃなくて良かったと、他に考えなくちゃいけない事が沢山あるのにそんな事を考えてしまう僕は本当どうかしている。
道中、伊吹はひと言もしゃべらないし僕の方を見ようともしない。視線が合わない事に少しだけイラっとする。
身体は中途半端に高められすぐ傍に見える伊吹の首に牙をたててしまいたかった。だけど…ダメだ。伊吹だけはダメ。
中途半端な吸血で理性のタガが容易く外れそうになるのを必死でこらえる。
拷問のような時間が過ぎ僕の部屋に入るとベッドに僕の事を降ろし、ポケットから出したハンカチで僕の口の周りについた血を綺麗に拭った。
ああ…勿体ない―――。
視線だけで血のついたハンカチを追う。
それから伊吹は僕の前に座って俯いたきり何も言わない。
僕がどんな気持ちでいるかも知らないで自分はだんまりか。
こんな死刑宣告を待つような――――、うんざりだ。
半ば自棄になりながら足を組み、見下ろす視線にほんの少しの力を乗せて言う。
”さぁ、お前の本性を見せてみろよ”
「―――いぶき」
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