感謝を。

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感謝を。

「そうだなぁー。じゃあ4年待ってくれる?」 と、そんな事を言う伊吹。いやにあっさりしている。 は? 「へ?」 「いやー、そしたらさ弟たちも高校卒業するじゃん?流石にそれ以上は過保護すぎ。あいつら双子だし意外としっかりしてるからもっと早くてもいいのかもだけど、俺が心配なんだよ。あいつらが高校卒業するまでは見届けてやりたい。俺の我儘。ダメかな?」 「――ダメ…ではない、けど」 「それにさ、お前って18歳って言ってるわりに見た目が少し幼いよな。だから俺が成人してたら何かと便利だと思うんだ。な?俺っててんさーい」 そう言ってまるであの三人のように楽しそうに笑った。 多分これは僕への気遣い。明るく言ってみても不安が全くないというわけではないはずだ。それでもお前はなんて事ないって笑うんだ。 お前ってやっぱりなのか? ああ…でも死ぬわけじゃない。いや、死ぬのと同じか。家族も周りの人間もお前の存在を忘れてしまう。それをあと4年という僕にとって瞬くのと同じ一瞬で全てを捨ててしまえると言うのか? 「あーお前また変な事考えてる?」 「―――変な事って?」 「ヒースってさ、時々変な顔するじゃん。笑ってるけど冷めてるっていうかさ、何か表情とは違う事考えてるなーっていつも思ってた」 ああ、こいつがいつも変な顔で僕の事を見てたのは気づかれてたって事か。 どれだけ僕の事が好きなのさ……。 「ヒース、俺お前の事ずっと気になってた。それって弟たちと同じで気になるんだと思ってたけど、違った。さっきお前が他の男の上に乗っかってるの見て……」 「―――言い方…」 「悪い…えーと膝の上に座って…?」 「あー、うん。それでいいよ」 「で、それ見た時分かったんだ。お前の事が恋愛的な意味で好きなんだって。お前の事誰にも渡したくないって。―――お前の瞳に浮かぶその薔薇も綺麗だ…。お前の全部が美しい……」 「随分と熱烈な……お前ってそういうキャラだっけ?」 僕は少しだけ恥ずかしくてつい茶化した口調になってしまった。 伊吹は別段気を悪くした風でもなく、 「そうだな。自分でもびっくりだ。お前の事になるとどうも、おかしい」 そう言う伊吹の僕を見つめる瞳が優しくて、あの男の最期を思い出す。 あの時はあの男との永遠の別れを選んだ。だけど、伊吹とは―――。 「―――お前も夜渡り人になったら瞳に薔薇浮かぶと思うよ?」 「え、本当に?やったぜ!」 万歳と手をあげて喜んでいる姿が少し幼く見えて不覚にも可愛いと思ってしまい、くすりと笑う。 「そんな嬉しい?」 「そりゃ嬉しいさ。何と言ってもお前とお揃いだしさ、それにそんなに綺麗な薔薇が俺の瞳にも咲くとなると――お前も、俺の事好きって思ってくれるかなって」 と、にぃと笑う伊吹のいつもの笑顔にやっぱりお前はこうでなくちゃと思った。 そして、そんなのはとっくに……と思うが言葉にして教えてはやらない。 ***** 僕たちは4年の後、約束通り伴侶となった。 なぜ『恋人』ではなく『伴侶』かと言うと、伊吹が俺たちの関係は恋人っていうより夫婦だよなって言ったからだ。その方が僕としてもしっくりきたし、僕たちの繋がりがより深いものになったように思えたから僕たちは『伴侶』になった。まぁ、呼び名が変わっただけで実質同じなんだけど、それでも僕たちにとっては大事な事だった。 僕たち以外誰もいないし、誰もいらない。 長い間僕は真っ暗な闇の中をひとり歩いて来た。これからはお前とふたり―――。闇すらも明るく照らす僕のうさぎ。 お互いの首に牙をたて血の交換をした。 それはとても甘美で、お前の幸せそうな笑顔と共にこの日の事を僕は忘れる事はないだろう。 これから二人でどのくらいの時を、夜を渡るのか分からないがお前と二人であればいつまでも退屈しないですむと思った。 最後にこれだけは約束する。どんな事があってもお前を残して僕は死なない。 もし死ぬ事があるなら絶対にお前を先に―――たとえそれが1秒であったとしても。 これはお前が僕にみせた覚悟に対する僕の覚悟。僕の愛。 お前の瞳に浮かぶ薔薇を見つめうっそりと微笑む。 あなたに会えた運命に―――――― -End-
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