【 満月の中の零戦 】

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【 満月の中の零戦 】

 咄嗟(とっさ)に彼の手をギュッと握り返す。 「そうだ!! そのまま、僕の手をしっかりと握ってて!! うおぉぉぉーーーーっ!!」  彼は、力の限り私の右手を持ち上げた。  私も、彼の手を強く握り返す。  本当は、死にたくない……。  死にたくないんだ。 「うおぉぉぉーーーーっ!!」  彼は、目を強く(つむ)り、歯を食い縛りながら、私の体を持ち上げる。  私ももう一方の手で彼の手を握り締め、体を委ね、彼の胸の中へと飛び込んだ。 『ザザザザ……、ガシャガシャッ!!』  私は、見知らぬ日本人に、助けられた……。  あの時の、『零戦』が墜落した時の、曾お祖父ちゃんのように……。  彼の服を握る手が、小刻みに震えていた……。 「はぁはぁはぁはぁ、だ、大丈夫!? はぁはぁはぁ……」 「う、うん……」 「もうこんなことよそう、はぁはぁはぁ……」 「ご、ごめんなさい……」  私は、彼に抱きかかえられ、金網を越えると、ビルの屋上の安全な場所で、力なくしゃがみ込んだ。
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