【 笑顔 】

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【 笑顔 】

 翌日、ワシは、ニワトリのような鳥の鳴き声で、驚いて起きた。  ワシが、大きな木の葉のようなふとんから、上半身を起こすと、何故か隣には、タマラが笑ってワシを見ておった。 「あっ、タ、タマラ。グッド・モーニング……」 「ふふふ、モーニン」  タマラは、かわいらしい笑顔で、ワシに朝食を持ってきてくれて、また食べる仕草をしてこう言った。 「ユー、カイカイ」 「あっ、ああ。カイカイね……」  ワシは、それが何となく食べろということなんだなと理解した。  ワシが、思いっきりがっついて食べていると、タマラはその姿を見て、笑っておった。 「んっ? 何かおかしいかい?」 「うふふふ……」  彼女は、天使のような笑顔を見せた。  こんな負傷した日本兵を前に、どうしてここまでやさしくできるのか、不思議でならなかった。 「ミー、タマラ。ユー、フーサット?」  タマラは、始めに左手を自分の胸に付け、次にこちらへ手の平を向ける。  その仕草から、名前を聞かれているのだろうと理解した。 「あ、俺の名前? 俺は、『橘 徹(たちばな とおる)』」 「タチバナ……、トオル……?」  タマラは、少し首を傾げながら聞く。 「ああ、トオル」 「オー、トオル」 「そう、トオル」 「うふふ……」  タマラからこの地の太陽のような、やわらかい笑顔が覗いた。  出された食事を全て食べ終わると、タマラは次に、足の手当てをしてくれる。  左足の肉が削ぎ落ちた箇所は、痛々しかったが、その巻いていた葉っぱのおかげか、傷口は幸いにも壊死をしていなかった。  タマラは、やさしく傷口に何やら見慣れないドロッとした塗り薬のようなものを手に取り、その患部へ塗った。  それでも、さすがに傷口は痛んだ。 「うわっ! 痛ててててて……」 「オオ、トオル、ソーリー・トゥルー」 「いや、ちょっと、傷口が染みただけだから、大丈夫。痛てててて……」  そんな俺の苦悶(くもん)の表情を見て、タマラは痛みを和らげるかのような満面の笑みをワシに見せてくれたんじゃ。 「クスッ、ウフフフ……」 「は、はははは……。サ・サンキュー、タマラ……」 「リクリク・サムティング」  その時のワシの顔は、まるで初恋の人に照れ笑いしたかのような表情じゃったと思う。  タマラは、まだその当時、16、17歳くらいじゃった……。
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