1.もう一度、燃えるもの

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1.もう一度、燃えるもの

 神村翔貴(かみむらしょうき)は、プールサイドに建つ水泳部の部室の扉に鍵を差し込む。  昨日までとは打って変わって雲一つ無い五月晴れ。夏将軍(なつしょうぐん)という気象用語があるなら、今朝、そいつが訪れたに違いない。 「マジ、あっちいし」  部室に入ると、神村はリュックを下ろし、ロッカーに置きっぱなしにしてあった水中メガネなんかの私物をその中へ押し込んだ。  神村は、水泳部を辞めた。文武両道を掲げる高校に通い、一年間過ごしてきたが、ここは文武両“無”道なのだと気付いた。  地方都市の公立高校にありがちな、取り柄の無い高校だ。スポーツ系で全国大会に進む部活もなければ、かと言って東大に進む者もここ数年出ていない。 「ちょっと、神村くん、水泳部を辞めたって本当だったの?」  振り返ると、担任の立花すみれが部室の入口に立っていた。 「なんで知ってんの? さっき退部届出したばっかなのに、情報早いじゃん」 「当たり前よ。私を誰だと思ってるの?」
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