ミッション8 オカンの策略

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ミッション8 オカンの策略

「どうぞ」  パダに来たお客様、右議政様に緑茶と羊羹をお出しする。  この緑茶は右議政様が苦労して見つけてくださったものだ。 「店は繁盛しているようだね」 「はい。右議政様のご助力のお陰です。いつもありがとうございます」 「なんてことはない。お、この菓子は緑茶に合うな」 「そのお菓子はシア様が作りました」 「なんと!? シアちゃん天才!さすが!」 「私もそう思います!」  「ここには王様はよくいらっしゃるとか」 「はい、よくいらっしゃいます」 「君に会いにだろう?」 「え?違いますよ~」 「いやいや、宮中では噂になってるぞ。王様の求愛になびかないおなごがいるとな」  きゅ、求愛とな!?その小恥ずかしい言葉、やめて……。 「ところで、噂になっているとは……?!マジですか……」 「マジだ」  右議政様は娘のシアの影響か、前世を思い出したシアがよく使うようになった、〈マジ〉とか〈ヤバい〉とかを普通に使う。話してみると、話しやすいとても気さくなお方なのだ。  ドラマでは私を殺そうとするなんて、そんな方にはとても見えない。 「他に誰か好いた殿方がいるのか?」 「うーん、私は小さい時からジュウォン兄さんが好きなんです」 「あー、あいつはいい男だな」 「でしょう?私、強くて逞しい人が好きなんです。結婚するならジュウォン兄さんみたいな武官様です!」 「……小さい頃から好きだと言ったが、それは恋人としてか?」 「えっ?」 「まぁ、また考えてみよ」 「あ、パパン。来てたのね」 「シアちゃ~ん。お菓子美味しかったよ」  右議政様は目尻を垂らして、娘にデレデレになっている。 「それは良かった。家でも作るからね」 「ところで、シアちゃんは誰か好きな殿方はいるのかな」 「いません」 「良かった。パパ、シアちゃんをお嫁に行かせたくないんだよ……うっ…」  悪人面をうるうるさせて本気で泣いている……。 「え~、嫌ですよ。行かず後家は。どこかいいお家を探してくださいよ」 「嫌だけれども、孫もシアちゃんみたいに可愛いんだろうな……見たいな……。はぁ、結婚相手を探すか……そいつがもし、シアちゃんを泣かしたら……そいつは殺す!」    殺すの部分だけめっちゃ怖かったよ。ドス効いてたよ、めっちゃ悪人面だったよ!    それでドラマのソユンは命を狙われるのね。王様をめぐって間接的にとはいえ、シアを泣かしたから殺されかけるのね。  ……さて、もうすぐ昼の部がおしまいだから夕方に備えて買い物に行きますか! 「シア、卵を買いにいってるくるね。店番よろしくね」 「了解。いってらっしゃい」 「気を付けてな」 ◇◇◇    盆ざるいっぱいに卵を買った。今日はこれでオムライスを作って子供達に出そう! 「あ、王様……」  こちらに気づいて小走りで王様が来る。右議政様に聞いた《求愛》という言葉が浮かんで、顔を見るのが恥ずかしくなり、気付いたら逃げていた。 「あ、待て!ソユン!!」  ちょ、王様ともあろう者が大声出しなさんな。  卵が揺れて走りにくい。  しまった!行き止まりだ。振り返ると王様が両手を広げて捕まえようとしている。いや、どさくさに紛れて抱きつこうとしている?なんか積極的じゃない?どうした!? 「ソユン…(はあはあ)、もう……(はあ)逃げられないぞ!」 「ちょっ、こっちく……」あかん、口に出したらあかん。ちょ、こっちくんな!あーっ   卵が二人の間で割れた。 「すまない」  卵は私の側で割れたので私だけ卵まみれになり、王様は汚れなかった。(王様が汚れないように頑張ったんだよ) 「いえ、お構い無く。それより服を買って頂いてありがとうございます。卵も」  さすがに卵まみれで歩けない。    王様が買って下さったのは薄桃色と薄水色のチマとチョゴリだった。   「こちらで着替えて下さいね」  服屋さんが縁側に面した部屋を貸してくれた。王様は縁側に座っている。  ソン内官様がなぜかいない?どこいった?    サッと着替えて縁側に出た。王様が選んで下さった服なので、着た姿を見せるために、王様の前で少し立ち止まる。ドヤ! 「似合っているな。これで全部、私からの贈り物だな!」  王様はとても満足げに仰った。    そう……。服の他、靴もノリゲも王様に頂いたもの。王様だけあって、何気にセンスがいいから気に入って使っている。悔しいが。 「もう王様のもの同然です」と少し離れたところからソン内官様の声が聞こえた。  その時、男の子が数人、外に立っていた王様を私の方へ押し寄せ、部屋の中に私と王様を追いやると、あろうことか鍵を閉めた!  呆気にとられていたが、私は見た。はっきりと見た!オカンだ。息子ちゃんラブのオカン内官がニヤリと笑ってこっちを見てるのが!  ──オカン、謀ったな! 「閉じ込められてしまったな」 「はい……」  チラリと王様の様子を伺う。  あ、目が合ってしまった。王様が私の方へ向き直る。  ヤバい。この状況ヤバい。  なんか胸がドキドキする。なんで?目を逸らせない。なんでぇー?
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