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ミッション11 地獄な夜
「……えっ?」
「家には伝えてある。安心せよ」
「えっ、根回し済み?いや、帰ります」
「外は暗いぞ。一人で帰れるか?怖がってたではないか、途中の暗闇を」
「……そんなキャラでした?」
「きゃら?」
「もっと紳士的かと……」
「そなた相手に猫を被っていては戦えないからな。置き去りにされて悟った。お前が悪い」
「それは申し訳ありません」
私が眠れる獅子を目覚めさせたのね……。
「さ、食べるがよい」
王様にお酒をおつぎしてご馳走を頂く。めっちゃ美味しい。さすが王様が用意してくれたお料理。
「旨いか?」
「半ばやけくそになって食べていますが、美味しいですね!」
「宮殿に来たら毎日食べられるぞ」
「それはいい……いや、良くないです」
満腹になってくると眠くなってきて、少し寝ては起きて、寝ては起きてを繰り返した。
「疲れたのであろう、そちらの部屋で休むがよい」
「ありがとうございます」
女官に体を拭いてもらって寝間着に着替え、お布団にダイブ……ん?枕2つない?
お布団の前に固まって立っていると、王様も寝間着姿でやってきた。
「どういうことかな?」
笑ってるけど、心の中は鬼の形相だよ。
「こういうこと」
王様が両手のひらでお布団を指し示す。
「……いやいやいやいや、もういいっす」
お布団から離れた床に横たわる。硬っ!床、硬っ!冷たっ!
……仕方ないからお布団の端に横たわる。
「ははっ、何もせぬから安心しろ」
信用できねぇぇぇぇぇ。
「……あの、ガン見するのやめてもらえます?」
眠れねぇぇぇぇぇ。背中を向けたら何されるか分からないし。どうすれば視線をシャットアウトできる?
閃いた!逆に近づけば、見られなくない?奴は登頂部しか見られなくない?癪だがそうしよう。
もぞもぞと王様の近くに寄る。
「ど、どうした……?」
王様は明らかに動揺している。
作戦は成功。王様の視線は気にならなくなった。が!
「ちょ、離して下さい」
王様に捕まる。抱き枕になってしまった。
あ……、王様めっちゃドキドキしてる?でもなんか暖かくて気持ちいいなぁ……って、危な!
離してくれなさそうなので、心を無にして寝ることにした。目をつむって無になる。
……ん?何かが太ももに当たる。手を伸ばして確かめると、短刀のようだった。護身用に忍ばせている?
「王様、護身用の短刀が当たるのですが移動してもらえますか?」
「……無理だ動かせない。手を離せ」
「えっ?」
「そうしないとそなたは今から喰われる」
「何をおっしゃ……」
言い切らないうちに王様が私に覆い被さってきた。短刀は……真ん中に移動した……!
「失礼しました!!」
慌てて手を離す。
「ちょ、王様も離れて下さい」
王様をぐいぐい押すがびくともしない。そのうち王様は私の胸に顔を埋めてきた。自慢じゃないが、豊満なほ……。
「ちょっとくすぐったいです。やめて下さい……あ、ちょっと、ダメです……やめ……」
力が入らない。ここで流されたら負ける。
「名前を呼んでくれ。ファンと。そうしたらやめる」
「それはさすがにできません。おそれ多くてできません」
「ならこうする」
王様はあろうことか、私の胸の頂を服の上から噛んだ。もう片方の胸も揉まれている。
「やめてくだい。やめて。ダメ、そこダメです。やめてファン様!」
噛んだり吸ったり、つまんだりしていじめてくる。
「違う、ファンだ」
「やめてファン!」
約束どおり、ピタッとやめてくれた。こういうところは律儀だ。
それから私は全く眠れなかった。もし寝てしまったら、してないのにしたとされて王様の女にされるかもしれないからだ。
それに色々と考えていた。ここにこうしているってことは、好きとははっきり言えないが、嫌いではないと言うこと。それにこうしてくっついているのも心地よい。
王様もたぶん、あまり眠れていない。一晩中、私を抱き枕にして、頭をなでたりこめかみや頬にキスをしていた。
何を話す訳でもなく、ただ、お互いの存在を感じていた。それぞれの思惑を秘めて……。
「危うく、本当に旦那様になるところだった!」
夜が空けたので、体を起こして伸びをする。
王様も起きていて、片手で頭を支えて横たわり、私の方を見ながら不敵な笑みを浮かべている。……なんか不安なんですけど。
着替えを済ませて王様のいる部屋に戻ると、すかさず、ソン内官様が王様に駆け寄ってきた。
「王様、やりましたね!」
「未遂ですよ!」
「そんなことは関係ない。一緒に寝たと言う事実が大事なのだ」
……え?聞いてないよ……。
呆然と立ちすくみ、王様の顔を見る。
「昨夜、私の腕の中で大人しかったではないか。そういうことだ」
他の女の子だったら泣くよ?そんな騙し討ちみたいなこと。私は精神年齢が高くなったから耐えれているけれど。それでも泣けるよ?
「いやだぁぁぁ。私は認めませんから!帰ります!」
部屋を出ていこうとしたら王様に捕まえられた。
「こら、送るから待て!」
ゆっくり朝食を頂いて帰ることになった。
「美味しい……」
こんな状況なのに美味しい。涙が出てくる。
「これから毎日食べられるぞ」
「行きませんよ!」
きりっと王様を睨む。
「そんな顔も可愛いなぁ」
……駄目だ、効いてない。
朝食後、家まで送ってもらった。馬で密着して……。
「ソユン!」
お父様とお母様が出てきた。
「おとうさ……」
「なぜ帰ってきた!」
「……えっ?」
「お前の家はここではない、帰れ!」
「だってさ、帰ろう宮殿へ」
「王様、ふつつかな娘でございますがよろしくお願いいたします。今は頭がおかしくなっていますが、前は賢く慎み深い自慢の娘でした。そのうち落ち着いて元に戻ると思います。娘をよろしくお願いいたします」
お父様が深々と頭を下げる。後ろのお母様も。
「義父上、義母上、私がしっかりとソユン殿を支えて参ります。どうかご心配なく、お健やかにお過ごしくだい」
「義母上……!」
王様に義母上と呼ばれたお母様が、感激してよろめいた。
「さ、王様もお忙しい。早く行け」
お父様が急かしてくる。
「……分かりましたよ」
しずしずと馬に乗る。
「王様、パダに連れていってください。しばらくパダで寝泊まりします」
「宮殿に行くのでは?」
「行きませんよ!まだお店でやることがあるので行きません。それに私はまだ……」
「私とは結婚したくないか?」
「王様は素敵な方ですよ。でも、私は結婚しません」
「なぜだ?皆が私の寵愛を、その権力を欲しがる。そなたは要らぬのか?」
「権力なんて重いですよ。それを得るには相応の責任と重圧がのし掛かってきます。それに権力なんかあったって、いらない争いの種になるだけです。本来なら民を守ためにあるのに、自分たちの地位を守るために欲しがる人が多すぎです。王様のご寵愛だけならまぁ、嬉しいですが……」
「そなたが正しく使えばよい。そなたならできるだろう。私はそなたに側にいてほしいのだ、駄目か?」
王様が後ろから私を抱き締めた。
「駄目です。駄目な気がします……まだ良くわからないことがわからないままです」
「そうか……でも私は諦めない。また来る」
王様はパダに私を残して去っていった。王様のぬくもりが背中に残る。胸の中がモヤモヤして落ち着かなかった。
「はぁ……もう一回寝よ……」
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