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ミッション12 大妃様のご来店は突然に
「お姉ちゃん、お姉ちゃん起きて!」
「ん?……シア……?」
「何でこんなところで寝ているの?なんで外に武官様がいるの?」
私はお座敷席のテーブルを端に寄せて寝ていた。ちなみにお座敷は結構広い。
「え?武官様が!?」
外を確認すると……いる!二人いる!
女で一人でここに暮らすとなると心配で、王様が護衛を付けてくださったんだろう。責任を感じているのかも知れない。律儀なお方だ。
「まぁ、色々ありましてね」
昨夜の出来事は言いにくいので詳細は秘密にしておこう。
「お疲れ……?もしや激しかった?」
シアは厨房へ行き、料理の仕込みをし始めた。
「そうだとしたらこんなところにおりませんよ」
「まぁ、そうか……」
私も布団をしまい、シアの手伝いをする。
「私がもし、王様と結婚するような事があったらシアの家は大丈夫だと思う?本当にドラマのようにならない?」
「パパンは私を王妃にしようと思ってないし、お姉ちゃんのことも悪く思ってない。むしろ、お姉ちゃんが王妃になったら嬉しいんじゃない?ここで一緒に慈善事業に励んでいる仲間だし」
ここに来た家のない子供たちは、希望すれば王様や右議政様が設けてくれた施設に入る事ができた。施設に入ると、顔の広い右議政様のツテで、人の良いしっかりした家に使用人として引き取って貰っていた。また、年齢の低い子供は養子に出されたりもしていた。
「そうだね。私にもよくしてもらって、第二のお父様みたいになってるしね……」
「私に遠慮してるのだったら、しなくていいよ。カフェのことも大丈夫だよ。任せて!もうドラマ通りに事は進んでないんだよ。状況がガラリと変わっている。自分の意思で動いていかないとね!」
「王様がぐいぐい来るからもう訳分かんないわ」
「意外だね。優男って感じだったのにね」
「猫被ってたんだって」
「おーぅ」
私がここまで王様を拒むのはドラマからの運命に抗っているから?そもそも王様の事は好きなの?まだ兄さんと結婚したいと思ってる?
「お姉ちゃん、大変だよ!」
外を見たシアが驚いている。
「どうしたの?」
「大妃様がいらっしやった」
◇◇◇
私とシアは急いで大妃様を出迎えた。
「大妃、ようこそお越しくださいました」
「二人とも顔をあげよ」
大妃様は私たちを上から下までなめまわすように見たあと、口を開いた。
「あなたがソユンさんね、お話があります」
「はい。ではお部屋へご案内します。ご足労頂けますか?」
大妃様をお店で一番眺めの良い、上座の席へ案内した。私は下座に座る。
何の話かな?怖い……。
「あなた、入宮を拒んでいるそうね」
「……はい」
その事かぁ……あまり話したくないなぁ。
「なぜかしら?主上(王様のこと)のお側に居たいと望む娘は多い。居たくても居られないものなのに、なぜ拒むの?」
「それは……結婚って、この人を支えたいと心から思わないとやっていけないと考えているからです」
「なるほどね。そうは思っていないと」
「王様を支えるためには王様と同等の重責がのし掛かってきます。それ相応の覚悟と相手を思う気持ちが必要かと……」
「大妃様、どうぞ」
シアが緑茶とかりんとう饅頭をお出しした。
「あなたは右議政の娘だったわね」
「はい。ホン·シアと申します。縁あって、ソユンさんと一緒にこの茶屋を経営しています」
「茶屋の評判は聞いているわ。私も一度来てみたいと思っていたの。お菓子が珍しくて美味しいって聞いたわ」
大妃様はかりんとう饅頭を少しかじった。
「このお菓子は誰が作ったの?」
「中の餡が私、皮と仕上げはソユン様です」
「美味しいわ」
「ありがとうございます」
「ここは二人で?」
「はい。王様と右議政様にご助力いただいて、二人で経営しています」
「夕方になると子供に食事を安く提供して、字を教えているとか」
「「はい」」
「二人とも素晴らしいわ。やろうと思ってもなかなかできるものではない。それに……右議政も意外ね。こういうこともするのね」
大妃様と右議政様とは派閥が違うので、対立しているらしいが、大妃様は右議政様に感心したようだった。二人の仲が泥沼化して暗殺という最悪の事態は防げそうだ。シアのお家没落阻止という目標は良い方向に進んでいると思う。
「シアさん、このお饅頭を幾つか包んでくださる?」
「はい、喜んで」
シアはかりんとう饅頭を包むために席を外した。
「実はね、昨晩、主上が帰ってこなかったから、どうしてか聞いたのよ。ソン内官を脅してね」
ちよ、綺麗なお顔で怖いことを平気で言う……。ソン内官様、おかわいそうに。
「主上がご執心の娘の事は聞いていたわ。その娘が昨日、主上と寝所を共にしたのに入宮を拒んだって……!なんて不届きな娘なんだと叱りに来たのだけれど、杞憂だったようね」
「恐れ多いお言葉です。私はまだまだ未熟です」
「今後、入宮する気はあるのかしら」
「分かりません」
「《ない》ではないのね。なら私は待っているわ」
はぁ、回りからどんどん固められていく~。
「でも入宮しなくても気にしなくていいのよ。昨夜の事は箝口令が敷かれていて、知っている者は少ないわ。あなたは自分の考えをしっかり持っている。そんなあなたの人生だもの。好きなように生きなさい」
さすが大妃様!『帰ってくるな』と有無を言わさず追い返したお父様とは器の大きさが違うわ~。涙さえ出てくるわ~。
シアがかりんとう饅頭を大妃様のお付きの方にお渡しした。
「お饅頭、美味しかったわ。また来るわね」
そう言うと大妃様は帰っていった。
「はぁー、緊張した。シア、色々気を遣ってくれてありがとう」
「気にしないで。ところで、昨夜なんかあったの?」
「うん。また攻撃されたのよ。防衛は成功したのだけど、強行突破してきやがったのよ」
「王様も大変だと思うよ。王妃様を早くに亡くされて、ご側室もいないし、支えてくれる人がいないもの。それにお世継ぎもいない。だからご結婚を相当急かされていると見た」
「王妃様って、出産の時に亡くなったんだよね?」
「うん。お姉ちゃん、丈夫そうだから跡継ぎバンバン産めそう」
(笑)みたいに言うのやめて。ソン内官様にも言われたし。どんだけ丈夫そうに見えてんだ?
「姑にも気に入られたみたいだし、嫁ぎ先としてはなかなかいいんじゃない?お姉ちゃん 家は有力両班(貴族)じゃないから政治に干渉もしないだろうし、王様もやりやすいっしょ」
「とはいってもね……なんか腑に落ちないんだよね……私の気持ちはおいてけぼりなんだよ……」
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