ミッション15  秋のレジャーは楽しい美味しい

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ミッション15  秋のレジャーは楽しい美味しい

 暑い夏が終わり、秋が来た。  王様は相変わらず忙しくされているようで、会えない日が多かった。 「いざ、出発!」 「おー!」  私たちはこれから、右議政様が所有している山へ栗拾いに行く。メンバーはシアとジュウォン兄さん、ヨヌとイナ、その他有志の子供たち。  パダの方は昼の部を休みにして、昼からは子供たちと拾った栗を食べることにした。 「ソユンお姉ちゃん、今日は旦那様はいないの?」 「旦那様?……あぁ、王さ……ぁぁぁ、あの方はお仕事で来れないよ」 「そっか……、この前お話したときに栗が好きって言ってたんだ」 「へぇ、そうなんだね。じゃ、王さ……旦那様の分もいっぱい拾おうね!」 「うん」  イナははにかんで、照れっと笑った。邪気のない子供の笑み、癒される。 「イナはさ、あの旦那様の事が好き?」 「うん。優しくて、王様っぽい感じがして、上品なのが好き」 「そ、そっか」  小さいながらに色々感じてるのね……。    それより、さっきからすんごく気になるんだけど、後ろ!後ろの二人! 「気をつけて、シア殿」 「すみません」  ジュウォン兄さんが甲斐甲斐しくシアのお世話をしている。山道だからだよね? 「見て見て、シア姉ちゃん!蛇いた」 「きゃっ」 「こらっ。女の人はな、蛇が苦手なんだ。持ってくるな!」  本気で怒ってる。めっちゃシアを心配している。なんか……ちょっとジェラシー……。 「ちえっ、見てみて!ソユン姉ちゃん、でかい蛇がいた!」 「ふんっ!」  ジェラシーを感じてイライラしていた私は蛇を掴んで山道の脇の谷に投げてやった。 「うおぉ、姉ちゃんすげぇ!」 「ソユンは山に慣れているからな。足腰も丈夫だし、蛇も虫もへっちゃらだ」  小さいときから兄さん含め、男の子と野山を駆けてたからね。そこいらの令嬢とは一味違うのだ。    栗拾いスポットに来て、子供たちが栗を拾い始めた。 「イナ、トゲに気をつけてね。素手で掴まずにこの火箸で掴むんだよ」 「うん」    男の子たちはいがぐりを投げて遊んでいる。栗を拾え。    シアとジュウォン兄さんはまるでペアのように行動している。いや、いいんだ。シアは超お嬢様だから。こんな山に来ないからね。私と出会って前世を思い出していなかったら絶対来てない。    そんなことを考えつつ、二人を観察しながら黙々と栗を拾った。 ◇◇◇  ジェラシーを感じまくりの栗拾いは終わり、パダに帰ってきた。ここからは栗パーティーだ!今から仕込み開始!    ジュウォン兄さんと子供たちは外で栗を焼いている。私とシアは厨房で栗の皮を剥いていた。 「ぎぇーっ!やってられっか!」  チマチマチマチマ、イライラする。何より数が多い。 「もう少し頑張ってよ!」 「栗ご飯、栗きんとん、食べたいでしょ?」「モンブランが食べたいわ」 「それはハードルが高いから無理」 「たくさん作って王様に食べてもらわなきゃね。喜ぶよ~。だから頑張って皮を剥こう」  シアがからかうようにニヤリと笑う。 「いや、あたりまえのように王様と私をセットにするのやめて?シアだって、兄さんにあげるんでしょ?」  兄さんのことや栗の皮剥きでイライラしていて、少し厳しい口調になったかもしれない。 「え?」  シアが少し戸惑った表情をした。いつもなさらっと受け流すのに。 「いいのよ、いいのよ、シアならいいの。気にしないで」 「いや、そんなんじゃないから。でも何でいいの?ジュウォン兄さん大好きでしょ?」  いつものシアに戻った。でも、本心は分からない。だって山ですっごく穏やかに笑っていたもの。      私が前世を思い出してから、良くも悪くも人間関係が大きく変化していた。    すでにドラマ通りに事は進んでいない。王様と結ばれるための修正だと思っていたことは、修正ではなくて自分の行動の結果だ。  この先どうなるかなんて分からない。自分で生き方を決めないと! 「ジュウォン兄さんは大好きだけどだっただけなんじゃないかって……たまに思ったりするのよ」  でも、焼きもちは焼いちゃう。やっぱりジュウォン兄さんが好きなのか……。 「ふーん」  シアも何か思う事があるのか、その後、私たちは無言だった。お陰で皮剥きがはかどった。   「おーい、栗が焼けたって」  ちょうど皮剥きが終わり、休憩していたところだった。ヨヌが私たち呼びに来た。 「どうぞ、シア殿」  「……兄さん、私にも剥いてよ!熱いからね。私も熱いからね」 「いやいやソユンは自分で剥けるだろ。昔からよく一緒に食べていたじゃないか」  シアとジュウォン兄さんが女王様と女王様に心酔している従者に見える。勤務中のキリッとした兄さんからは想像もできないデレっぷり……。 「お姉ちゃん、どうしたの?」  隣にいたイナが、心配そうに私の顔を覗き込んだ。  唇を尖らせて、じーっと兄さんを見ていた険しい顔の私が心配で、声をかけたのだろう。  「何でもない。大丈夫だよ。食べよう」 「旦那様にも栗、あげる?足りる?」   眉毛をいっぱいまで下げて、心配で仕方がない様子だ。純粋に王様にあげたいって気持ちが伝わってきて微笑ましく思う。   「うん、お菓子にしてあげるよ。でも今日、右議政様に差し上げるためにシアお姉ちゃんも持って帰るから、今日の分では足りないかも?足りなくなっても明日また取りに行くから大丈夫だよ」 「そっか……」  王様に自分が拾った栗をあげたいのか、イナはうつ向いて、いかにも残念そうにしょんぼりしている。王様が本当に好きなんだな。可愛いな。 ◇◇◇  辺りが薄暗くなってきた。栗パーティーも終わり、子供たちが次々と帰ってゆく。 「じぁ、またなソユン」 「またね」  ジュウォン兄さんとシアも連れだって帰っていった。二人の背中にモヤモヤしながら見送った。    ──さぁ、明日は休みだ!気持ちを切り替えていこう! 「ソユン殿、宮殿からです」  警護に当たってくれている武官様が手紙を持ってきた。内容を確認すると明日の午後に宮殿から迎えが来るという。    王様かな?  久しぶりにお会いできるのは嬉しい。でも、宮殿かー、緊張する。 
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