ミッション16 王と兄

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ミッション16 王と兄

 約束通り、宮殿から迎えがきた。宮殿につくなり女官たちに全身ピッカピカに磨かれて、お化粧バッチリされて、めっちゃ綺麗な服を着せられた。  勘違いされていないよね?大丈夫だよね?やだな。行くのがやだよ……。今日、帰れるよね……?  ソン内官様に連れられて、王様のいらっしゃるお部屋へ向かう。    今日もソン内官様の担当の日。    ってか多くない?何かある時はいつもソン内官様が担当の日なんですけど……。  護衛はジュウォン兄さんだ。イヤッホウ! 「王様、カン·ソユンが参りました」 「通せ」   「よく来たな」  王様がふんわりしたとっても優しい笑顔を私に向けてくれた。  目に見えない何かにふんわり包まれた気がした。  お、なんだこの胸がヂグってするのは……。私、この優しげなお顔好きかも……。それに、今日は王様の服である袞龍袍(コルリョンポ)(龍の刺繍が施された服。深紅色)を着ている。そのせいか緊張する。    どうしていいか分からなくてつっ立っていたら、「そこに座れ」と声をかけらた。 「化粧をしてもらったのか……綺麗だ」  ……照れるからやめてほしい。   「昨日、栗の菓子を届けてもらった。美味かった。母上も喜んでいたぞ」 「そうですか、良かったです。チマチマ皮を剥いた甲斐がありました!喜んで貰えて嬉しいです」 「チマチマしたのは嫌いか?」 「はい!イライラします」 「そなたらしいな」    堅苦しくない会話で、ちょっと緊張もほぐれた。 「栗拾いは楽しかったか?」 「はい!」 「蛇を掴んで投げたそうだな。豪快なやつめ」  ……ジュウォン兄さんめ……。 「今日はソユンに見せたいものがあってな」 「見せたいもの?」  王様はにっこり笑って私の手を握った。 「行こう」    王様と手をつないで宮殿内を歩く。宮殿にいる人からチラッチラッ見られて、ひそひそされている。落ち着かない……。 「ここだ」 「わぁ、綺麗!」 「ソユンは自然が織り成す風景が好きだろう?喜ぶと思ってな。今が見頃だ」  そこは、前に連れて行ってもらった離宮よりも広い池だった。その周りに生えた木々はうっそうとしていて、濃密に紅葉している。その色が池に映り込み、よりいっそう目の前の景色を鮮やかに染めていた。 「行こう」    長い橋を渡り、池の中心にある島に向かう。島にはあずまやがあった。 「ここでやろう、ソ武官」  ジュウォン兄さんがあずまやの裏手に葉っぱをこんもりと盛る。そこに栗を入れて火をつけた。 「王様、こんな所で焚き火をしていいのですか?」 「うーん、まあいいだろ」  ワクワクしている少年のような顔をして、地面が焦げて景観を損ねるとか、何も気にしていない様子。結構大胆なお方なのね。そういえば、一緒に居て息が詰まるとか、そういうのはないなぁ。  栗が焼けるまで、幼い頃の話など他愛もない話していた。 「王様、どうぞ」  ジュウォン兄さんが皮を剥いた栗を懐紙に乗せ、王様にうやうやしく差し出す。 「兄さん」  私もにっこり笑って、兄さんに手を差し出す。 「……お前は自分で剥けるだろ」 「……ですよね」  最近優しくなくない? 「よい、私が剥いてやろう」 「いやいやいや、大丈夫です」 「王様、私が」  王様に剥かすくらいなら自分が剥くとういうジュウォン兄さん。それなら最初から剥いてくれ。 「よいのだ。ほら」 「あ、ありがとうございます。か弱い女性扱いをして下って嬉しいです」    ジュウォン兄さんが苦笑している。王様も笑っている。 「笑わないでください」 「今朝、ソ武官から昨日の事を聞いてな、私もしてみたくなったのだ。二人とも礼をいう」 「礼には及びません」 「そうですよ。またしましょう」    焼き栗パーティーのあとは、あずまやで王様とお茶を楽しんだ。兄さんは警護に戻っている。ピシッと立っている姿、様になっている。  王様はまた奚琴(ヘグム)をひいて下さった。秋の優雅な午後にぴったりの曲。色とりどりの葉っぱがひらりひらりと枚散って、王様の優雅さを引き立てる。ジュウォン兄さんとはまた違うタイプ。  ……奚琴をひく王様をじっと見つめる。なんだかドキドキする。  ふいに王様の手が止まった。    王様は私の方に居直り、真剣な顔をして私の目をしっかり見て話し始めた。 「私はそなたが好きだ。天真爛漫で、その可愛らしい顔からは想像もできない不可解な行動をとるそなたが」  そういって、私の手を取る。 「……あ、あの……」  いきなりの告白に胸が締め付けられる。 「良くわからないのははっきりしたか?」 「……少しだけ」 「ここにいて欲しいのだ。駄目だろうか?」  心から請い願うような目を向けてきた。  私の心が動きそうになる。でも……。 「……まだダメな気がします」 「ソ武官が好きか?」 「えっ?……はい。ジュウォン兄さんは好きです」 「だが……私にも十分勝ち目はあると思う。そうだろ?」 「……そ、そうです」  王様は、私を引き寄せて、力強くぎゅっと抱き締めた。 「い、痛いです……」 「私は力ずくでもソユンを手にいれたい。本当はここらから出したくない。ここに留め置きたい」  王様が放してくれた。痛かったのでホッとした。 「長くは待てない。よいな」  反射的にこくんとうなずく。 「今日はソ武官と帰るがよい」  宮殿を出る門の近くでジュウォン兄さんを待っている間、ソン内官様が話しかけてきた。 「王様は今すぐ強行手段に出ても許されるはずですが、それをしません。大切にされてるんですよ。そのお気持ちをどうか分かって下さい」    オカン……。そうはいってもまだ気持ちの整理がついていない。  王様は、たまに普段の物腰柔らかな王様とは違う、肉食系の男の顔になるよのね……それがまたギャップ萌え…………ぎゃーっ!何考えててるの!あ、兄さんが来た。    「待たせな」 「大丈夫だよ。そんなに待っていないよ」 「あの可愛いソユンも王妃様か~」 「え?ならないよ。なれないよ」 「ん?そうか?王妃の座は空席だし、今一番、そこに近いのはソユンだろ。でもまぁ、俺の可愛い妹が王様に大切にされているのは嬉しいけどな」    妹……。  そう、私もたぶん、兄さんを本当の兄のように思っていたんだ。兄として大好きだった。兄として一緒にいると落ち着いた。最近そう気付いた。気付いてからそう考えないようにずっと避けていたけれど、兄さんの口から聞いてやっと認めることができた。 「はぁ……」 「ん?どうしたソユン」 「兄さん派だったのに……でもジュウォン兄さんのファンは続けるからね」    ジュウォン兄さんの腕に抱きつく。こうしていられるのもあと少しの間だろう……。
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