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ミッション17 迷子
兄さんがパダまで送ってくれた。パダの前ではヨヌが待っていた。目を強張らせて緊迫したヨヌの顔……嫌な予感がする。
「ソユンお姉ちゃん、大変なんだ!イナが帰ってこない。どうしよう」
「えっ!いつからなの!?」
「昼から」
「もうじき暗くなる。迷子なら早く探さないと……ジュウォン兄さん!」
「あぁ、手分けして探そう」
「イナー!」
ヨヌと川の方を探す。川で溺れていなければいいけれど……。良くない事を考えて手足が震える。
ヨヌもずっと不安そうで見ていて辛い。早く見つけてあげないと。
「ソユン!」
ジュウォン兄さんの声だ。
「山の方へ向かったのを見た人がいる」
「山……!?…………もしかして、栗を拾いに行ったんじゃ……」
「まさか!?」
「イナは王様が好きなの。王様の好物が栗って知ってて、王様にあげるために栗を取りに行ったんじゃ……」
昨日、右議政様の山まで子供を連れて歩いて一時間くらいかかった。昼からいないのなら帰ってきてもいい頃だけれど、いないってことは──迷子だ。
「俺は右議政様の山の方へ馬を借りて先に行く」
「分かった」
ヨヌの顔が心配で青ざめている。
「ジュウォン兄さんがいるから大丈夫だよ。私も探しに行くから家で待ってて。イナが帰って来るかもしれないから」
「うん……」
ヨヌがとぼとぼ帰っていった。早く見つけてあげないとあの子も心が休まらない……。
小さな背中が不憫だった。
王様がつけてくれた護衛の武官様がイナの捜索についてきてくれた。役所に寄って、人探しを頼んだが、身分の低い子供のため、取り合ってくれなかった。
薄暗い道を右議政様の山へ向かって、イナに呼び掛けながら歩く。
「イナー!」
そうこうしているうちに右議政様の山に着き、ジュウォン兄さんと合流した。イナは見つからなかった。
日はもう落ちてしまった。幸い月が出ていたので、少しだけ明るかった。
「兄さん、イナは?」
「見つからない」
「シアも右議政様も協力してくれているが、この暗さだ。なかなか進まない」
「イナ……どこにいるの……」
「ソユン!ソ武官!」
「……王様!なぜこちらに?」
「右議政から子供が行方不明だと聞いた。あの小さなイナだな?」
「そうなんです!……役所は取り合ってくれませんでした……。まだ小さいのに怖がってるに違いありません。早く見つけてあげないと!」
「ウ内官、役所に行って人を集めてこい」
「仰せつかりました」
お!?……今日はソン内官様じゃないのね。
「私も捜索に入ろう。ソ武官、ついてこい」
イナの捜索隊は王様の協力もあって、人数が増えた。
(早く見つかりますように)
私も護衛の武官様と山に入った。月明かりの届かない暗い場所もあるので、山の捜索は止められたけれど、奥へは行かないという条件で認めてくれた。
「……けて……」
前方からイナの声が聞こえた気がした!?どこ?
「助けて……ヨヌお兄ちゃん……ソユンお姉ちゃん……シアおね……」
「イナ?イナー!!どこなの!!?」
声のする方へ小走りで向かう。
「お待ちください!ソユン様!離れては危険です!お待ちください!!」
後ろで護衛の武官様が叫んでいたが、耳に入らなかった。早くイナを助けたい、その一心だった。
◇◇◇
ここどこ……?私も迷子……?
護衛の武官様は?暗闇ではぐれた?
小走りのつもりだったのにマジで走ってた……?必死だったので記憶がおぼつかない。
イナの声は?気のせいだった?
…………ヤバい……。
しばらくは平坦な山道を走ってきたはず。いつの間にか山を下ってた?
今、草むらの中にいる。
「……助け(ひっ)て……助(ひっ)けて(ひっく)」
大木の辺りでしゃくりあげながら、泣く女の子の声が聞こえる。そっと近づいて声の主を確かめる。
「イナ!」
「ソユンお姉ちゃん……」
イナの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。足元には栗の入ったかごがあった。
幼いイナをぎゅっと抱き締める。無事で良かった……!
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
こういう時は確か……動かないでいる方がいい。助けが来るまで二人で待とう。
◇◇◇
かなりの時間待ったと思う。最悪ここで夜を明かすことになる。
「お前ら、誰だ!そこで何をしている!?」
5人組の男たち……。刀を持っている。粗暴な雰囲気……。怖い。怖すぎて鼓動が耳に響く。血の気が引いて足先が冷たくなる。
「あ、あの道に迷って……助けを待っています」
「ここは俺らの縄張りだ」
「すみません、すぐに出ていきます」
早く離れよう。イナも怯えている。
「おい、あの女、あいつは上玉だ。高く売れるぜ……」
男の一人が言った。
こいつら……人攫いだ。
男たちがニタリと笑う。なんて気持ちの悪い笑みなんだろう。早く逃げないと……!
「あ!UFO!」
迫真の演技で男の後方を指差す。
男が後ろを向いた隙をついて、イナを抱えて全速力で走った。
「待て!」
イナの体重は軽いほうだが、それでも4歳の女の子を抱えて走るのには無理がある。
すぐに捕まりそうだった。
「助けて!!誰か助けて!!」
力の限り叫んだ……!
助けて、ジュウォン兄さん……!助けて……王様っ……!
男達が追い付いてきた。
もう駄目か……目をつむって、これから起こるであろうことに覚悟をした。
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