推しキャラ

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 ここだわ。右議政(ウイジョン)さまのお屋敷は。  うおっ、さすがの豪邸。 「ごめんください。カン·ソユンと申します」 「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」  お屋敷の中から使用人が出てきて、彼がシアの部屋へ案内してくれた。 「シアお嬢様、カン·ソユン様がお見えです」 「お通しして」  私とシアはお互いの存在を確かめ合うようにしばらく見つめあっていた。 「(さち)……」 「お姉ちゃん……」    何を話せばいいのか分からない……。 「幸……ごめんね。こうしてここにいるってことは幸も流されて死んじゃったって事だよね」  なんて姉思いの優しい妹なんだ……。姉を助けるために死んだだなんて涙が出てくる。 「ううん、違うよ。私は真面目にスイミングに通ってたから、溺れなかったよ。あの時、お姉ちゃんを引っ張って砂浜まで泳いだの。お姉ちゃんは助からなかったけれど、私は普通に寿命で死んだよ。独身のままね……」 「あ、そうなんだ……。同じように転生しているから、てっきり一緒に亡くなったのかと……」 「別々に死んだけど、また一緒に生まれかわったんだね」 「そうだね。また会えて嬉しいよ。幸!」  私たちは抱き合って、再会の喜びに涙した。 「ところで、お姉ちゃん。お姉ちゃんカン·ソユンだよね」 「そうだよ」 「で、私がホン·シア。どう思うよ?」 「どうって?」 「お姉ちゃん、ソ·ジュウォンさんって知ってるでしょ?」 「……知ってるけど?」 「ほら、思い出してよ。私たちが楽しみにしてたドラマ!」 「ドラマ……?」 「見てたじゃん!」 「ほらほら~」 「ドラマ……?ドラ……」    私の脳裏にチラッとテレビのある部屋が浮かんだ。そのまま何かを思い出そうと意識を集中する。    ──ソファに座り、幸と一緒にテレビを見ている……ん?あれは私?……なんで王妃になってるの……?ん?………… 「あーっ!思い出した!まさかっ!」 「やっと思い出したかっ!よっ、主役」    そう、ここは韓流時代劇 《ソユン》という物語の世界にそっくりなのだ。  「じゃ、私の顔はあのめっちゃかわいい女優さんの顔ってこと?自覚ないけど可愛いってこと?」 「うん。似てる」 「いやっほーい!」  嬉しさのあまり立ち上がって小踊りをしてしまった。前は、ほら……ブ…… 「そういえば、幸もあのすんごく綺麗な女優さんの顔じゃん」 「だよね。知ってたけど」    しばらくすると疑問がわく。 「この世界はどうなってるんだろね?」 「ん~……お姉ちゃんも私も確かに存在している。ここはファンタジーの韓流時代劇の世界で、朝鮮の歴史の一部ではない。あくまでもファンタジーとして創られたドラマの世界。王様も架空の人物だったはず。前の世界から見たら一種のパラレルワールドってとこ?」  「一種のパラレルワールド……なるほど!」 「そう、世界は全てパラレルワールド」  都合の良い言葉で都合よく理解する。 「待てよ……あのドラマの世界ってことは、私、王様と結婚するの?」 「いいじゃん、おめでとう」 「いやいやいやいや、私、ジュウォン兄さん一筋だから!断然ジュウォン兄さん派!」 「ちょっとぉ、贅沢言わないでよ。私の家なんか、父が私を亡くなった王妃様の後釜に据えようと必死で、反対する大妃(デビ)様(王の母)を毒殺して、それがバレて没落する家なのよ。お父様は処刑、家族は奴婢(ぬひ)だから!」  その上、物語のシアは王様に振り向いてほしくて、ソユンが妬ましくて、ソユンをいびりまくって王様に嫌われる。  賢いソユンはいびりに健気に耐えるのだけれど、それがさらにシアを追い込んで、最終的にはソユンを暗殺しようとする。それを王様が助けて、ソユンと王様の仲はさらに深まるっていう……。 「あちゃー。それはいかん!」 「でしょ?なんとか回避する方法を考えないと……」  妹がめっちゃ焦っている。なんとかこの可愛い妹が助かる方法を考えないと。 「そういえば、幸は王様派だったよね?」  《ソユン》では王様と内禁衛(ネグミ)(王の親衛隊)のジュウォンとソユンとの三角関係が物語のミソなのである。 「うん。名君で頭がいいし、あの優しそうなお顔が好き。権力もあるしね」  右議政様の娘だけあって権力が好きなのか? 「んじゃ、シアが王妃になればいいじゃん。そしたらお父上も悪さをしないでしょう?シアも私をいびって王様に嫌われる事もないし。没落せずにすむ。そして、私はジュウォン兄さんと……ふふふふふ」  どうしても顔がにやける。 「……そうね。お姉ちゃんが王様に興味がないなら王妃の座を目指すわ。まずは……大妃様に気に入られるようにしないと」 「もちろん、私も協力するからね!ドラマの設定では、ジュウォン兄さんは初めからソユンの事が好きだから、もう両思いも同然だし(この辺で幸が「前世は彼氏なんていたことなかったのにリア充かよ」って言ってたけれどスルー)取り敢えず、王様に気に入られるイベントは回避するようにする」 「私は王様に気に入られるよう、《ソユン》のように賢く慎ましく振る舞うわ」 「ちなみに、今日が物語の始まりだからね。気を付けてね」  しっかり者の幸が釘をさす。 「今日は、本当はお姉ちゃんだけが転んでシアに大笑いされるんだよ。そしてシアは助けもせずに去っていく。今朝の出来事はシアの性格の悪さを描いたエピソードなの」 「そうなんだ……なんか大まかなストーリーしか思い出せないんだけど、王様との出会いは雪が積もった日だっかな……?」 「そう。その日が来たら私も宮殿に行くわ。王様に接近するようにする」 「幸せな結婚生活のために、それぞれ頑張ろう!幸!」 「おう!」  私達は拳を突き上げて、お互いの健闘を祈った。
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