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ミッション1 誘惑に負けるな
「さっぶっ!」
私が部屋の戸を開けると、外には珍しく雪が積もっていた。
(勝負の日、来たわっ!)
寒いので、思い出したラジオ体操をして体を暖める。あいたっ!壁に手をぶつけた……。
──今日、お父様の荷物持ちで宮殿についていく。(うちは裕福ではないので、使用人の数が少ない。私も手伝いをしなければならないのだ)
そこで雪だるまを楽しそうに作っているソユンに王様が一目惚れする──王様の目に止まってはいけない。むしろ嫌われ……いやいや、嫌われたらジュウォン兄さんの仕事に支障が出るかも……。だって私、妻になるから……。
宮殿に行かないでおこうかな?その方が良くない?よしっ、仮病を使って宮殿行きを回避しよ。
「ソユン、ソユンはおるか?」
お父様、来るの早っ。
「なんでしょう?」
「今日は荷物が多くてな、一緒に荷物を持って宮殿に来ておくれ」
お父様は図画署の署長をしている。簡単にいうと宮廷行事の絵を描いて記録する記録係ってところ。
「お父様、私、朝から熱っぽくて……」
「さっき、元気そうに動いてなかったか?」
「え?なんのことでしょう?」
やばっ……目が泳いでしまう。
「……後で菓子でも買ってやるから来い」
あ、ばれた……。
◇◇◇
「よしっ、お父様の荷物を運んだから、とっとと宮殿から退散しよ」
でもこのモフモフの雪、めっちゃ気になるわ。人通りが少ないから綺麗なまま残ってるし、雪だるまを作りたい……。
ここなら誰も来ないでしょ。私は人目の少なそうな、池の近くのひっそりとした場所を選んだ。
ドラマでソユンが王様に会ったのもここじゃないし、大丈夫!
「さて、作りますか!」
私は夢中で雪だるまを作った。大きいのをひとつと小さいのをいくつか。小さいのは池の周りの手すりに並べた。可愛い。はー、満足。
前世で住んでいたところもめったに雪が積もらなかったんだよね。雪遊び楽しい。
◇◇◇
手と足が濡れて凍えてきた。早く帰ろう。
……いや、待てよ。どうせならこれしてから帰ろう!
私は白いふわふわの雪に背中からダイブした。目を閉じて雪の感触を味わう。……うん、冷たい……。
「そこで何をしておる?」
え?何?空耳……?ちょっと目を開けるのが怖いんですけど。
「これ、王様が聞いておる、答えよ」
やっぱり?いやー!私はもう死んだのよ。早くあっち行って。死んでまーす。
「これ、無礼だぞ!早く答えよ!」おそらく内官様(王様のお世話係の宦官)の声。
「……でます」
「何?はっきり答えよ」
内官様、苛立ってる……。
「私はもう死んでます!」
前世の記憶が戻ってから賢いソユンは死んだんだよ。
「生きているではないか?」
王様の声……。いや、まぁ生きてますよ。でも作戦的には死んだんですよ。
さすがにこれ以上、無礼を働く訳にはいかないので起き上がって王様にご挨拶をした。顔を見てはいけないので俯いたまま。
「面を上げよ」
「いえ、ご無礼ですので……」
このまま退散させて……私の事は忘れて。そろりそろりと後ずさる。
「許す。面を上げよ」
そうなるよね。そのパターンだよね。仕方なく私は王様と対面した。
うおっ!知っていたが、イケメン。高貴なオーラやばっ!王様、まだお若くて確か20歳すぎた位だったかな?
ちょっ、王様さっき「ポッ」ってなった?一目惚れ?惚れた?えらいこっちゃ。
「名を何と申す」
「カン・ソユンでございます」
「ここで何をしておった?」
「ご覧の通り雪遊びです」
よく見てよ、年甲斐もなくめっちゃ雪だるま作ってるでしょ?恥ずかし……。
「手足が濡れているではないか?」
「あとでお付きの者が来ますのでお構い無く」
うそ。そんな人いない。
「ソン内官、着替えさせてやれ」
「結構でございます。お気持ちだけで十分です」
「いや、しかし寒いだろう?」
「大丈夫です。それでは失礼します!」
うぉー、走れ!走れ!逃げろ!!
私は力の限り走った。そして建物の影に隠れて王様の様子を伺った。王様は雪だるまと私が埋もれた跡を見て笑っている。……いいだろ、雪遊びくらい。
王様は私が作った小さい雪だるまをひとつ持って、その場を去っていった。
あー、ごめん、シア。たぶん失敗したわ。めんどくさそうな事になりそう……。私はトボトボ逃げてきた道を引き返した。
さっき雪だるまを作った場所に来ると自分に怒りが沸いてくる。何で誘惑に負けて雪だるまなんかを作ったんだ……。こんな雪だるま、壊してやるっ!
韓国ドラマで怒った人がよくやる調度品をガシャーンってなぎ倒すやつを手すりに並べた小さい雪だるまでした。全部なぎ倒してやった。
大きい雪だるまには蹴りを入れて崩してやった。はー、スッキリした。あれってスッキリするのね。
あれ?この雪だるまの破壊って、ドラマでシアがやったやつじゃない?
作った雪だるまを壊されて、ソユンはショックを受ける。そこにまた王様がやってきて、一緒に作り直してくれる。
思い出した!王様が来るまでに逃……
「何をしておる?」
ひえっ!王様!心臓が飛び出るかと思った
わ!
「サクサクの雪だるまに足を入れたら気持ちいいかなって……」
もう、さっさと帰ろう。さようなら、王様。
頭を深々と下げてその場を辞した。ちらっと王様を見ると……めっちゃ笑ってるわ……。
◇◇◇
「お姉ちゃん、ダメじゃん!気をつけてって言ったのに」
シアに怒られた。当然です。ごめんなさい。
出会いエピソードを終えた私は、シアの家で報告会を行っていた。
「あ、でも雪だるまを破壊しまくったから、危ない人って思われたかも!?」
「何にせよ、興味はお持ちになったでしょうね」
はあ~とシアがため息をつく。
「シアも宮殿に行ったんでしょ?どうしてたの?」
「ドラマのソユンが雪だるまを作ってた場所で雪だるまを作ってた。王様は来なかったけれど」
「そうなんだ……。ドラマ通りにはいかないところもあるのかもね」
「うん、注意しないと。もしかしたら主役のお姉ちゃんの方に補正がかかってて、ドラマと違う行動をしても、ドラマと同じように進むのかもしれない」
シアは不安になっているようだ。そりゃそうだ。このままいけば、お家は没落してしまうもの。
「でも、私たちのように、ドラマにはないイレギュラーな事も起こった。回避する望みはあるはず。まだまだ序盤よ。頑張ろう!」
「いざとなったら王妃となったお姉ちゃんが守ってよね」
「分かってるって」
次はヘマをしない。そう誓った。
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