ミッション2 注意せよ!大体の王様はお忍びで視察している

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ミッション2 注意せよ!大体の王様はお忍びで視察している

 「これにします」  今日は街に筆を買いに来ていた。  図画署(トファソ)に勤めている父の影響もあってか、私は絵を描く事を趣味にしている。    後で風景を描きに山へ行こう。今日はぽかぽかしてて暖かいし、絶好の書写日和。その時に食べるお菓子も買っていこう。    油で揚げたねじねじのお菓子を一袋購入した。ほんわりと甘いにおいが漂ってくる。もう食べちゃおうかな。でも我慢だ。  お菓子から視線を戻して前方を見ると何やら他とは違うオーラを発する三人組がいた。どこかで見覚えがある……。  えっ……ちょっ!あれ王様じゃない? ドラマあるある、お忍びの視察中じゃない?    やばっ!目が合ってしまった!    逃げろ!    何も悪いことをしてないけれど、ややこしい事になる前に逃げろ!  ──私は全力で走った。 「追え!」  え?今、王様、追えって言った?何で?ひーっ。 ◇◇◇  あっけなく捕まってしまった……。足には自信があるが行き止まりに逃げて来てしまった。無念。  内禁衛(ネグミ)の武官様が腕を掴むので、持っていた菓子を落としてしまい、それを踏んでしまった。バリバリと悲しい音がした。 「あーっ!何するんですか!お菓子踏んじゃったじゃないですか!」 「……」  武官様は何とも思ってないようで威圧した表情で睨んでくる。逃げたから犯罪者って思ってるな……。 「離してください。私、犯罪者じゃありません」  そこへ王様が追い付いた。 「(はぁはぁ)なぜ…………(はぁはぁ)逃げ……た(はー)」  王様、息上がってますよ。 「何となく」 「カン……(はぁはぁ)ソユン……と申し(はぁ)……たか、お前……(はぁ~)足が早いな……」 「よく山に行ってますので、足腰は丈夫です」 「子供をたくさん産めそうですね。王様」  誰だ!言ったやつ!内官(ネガン)様かっ!?  王様もポッてならないでよ。 「もう、行っていいですか?」  踏まれたお菓子を拾って巾着にしまう。中身は無事そうなのであとで食べよう。 「それをどうするのだ?」 「中身は無事なので食べますよ。飢えている人も多いのに、無駄になんかできません。では失礼します」  とっとと退散しよう。全力ダッシュだ! 「待て!追え!」  王様が武官様に合図をした。私は人にぶつかって足を止めてしまった。武官様に捕まえられて、王様の前に連行される。チッ! 「そなた、なぜそう逃げる?」 「いや、だから何となく……」 「まぁ、そう急く()でない。しばし付き合え」 「え……私、用が……」  断ろうとしたが、さっきからソンと呼ばれいる内官様がめっちゃ睨んできた。失礼をしたら許さぬぞ的な。 「……仰せの通りにします」 ◇◇◇  王様は部下の粗相のお詫びにと、高級なお菓子屋さんに連れて行ってくれた。 「これと、これと、こちらの物も頼む」  風呂敷いっぱいにお菓子を買ってくれた。普段は食べられない、珍しくて色とりどりの綺麗なお菓子を買ってもらった。お菓子はめっちゃ嬉しい!どんな味がするのかな?そう思うと自然と笑顔になる。 「ありがとうございます」 「いや、良いのだ」  あ、王様照れてる……。 「そなたが望むのならまた買ってやる」  はは、またがあればね。またが。  お菓子はかさばるので、家まで運んでくれるという。 「あの……この後、絵を描きに行くんです。その時のおやつにするので、家まで運んでいただかなくても結構ですよ」 「それならそこまで送っていこう。かまわぬか?」 「かまいませんが、山寺ですよ?」    王様と山寺への道をぶらぶら歩く。  それにしてもここは身分制度が厳しくて、貧困層を拾いあげる機関が少ないと思う。ここはファンタジーの世界だから史実とは違い、いくぶんか生活がマシだけれど……。  今もそこに、汚れた身なりの小さな兄弟が虚ろな目で座っている。親はいないのだろうか、子供の貧苦を見かけると胸が痛い。 「王様……失礼ですが、買って頂いたお菓子を分けてあげてもいいですか?」 「構わぬが?」  ソン内官様からお菓子を受け取って少し兄弟に分けてあげた。一時しのぎでしかないけれど、今日は幸せに過ごして欲しい。 「……子供が衰弱しているのを見るのは辛いです。……子供が笑顔で過ごせるように子供カフェでも開こうかなぁ」……食堂でもいいけれどね。 「子供かふぇ?」 「茶屋です。子供が安心して集えて、安く軽食とかお菓子を食べられるお店です。ついでに困ってる事とか聞けたらいいな」 「そうか」 「とうしました?何かいいことありましたか?」  王様、めっちゃ機嫌が良さそう。ソン内官様も。  そうこうするうちに山寺に着いた。ここから、山一面に紫のチンダルゲの花が咲いている風景を見ることができる。 「見事だな」 「ええ。綺麗ですね」  誰かと感動を共にするのはいいことだ。仲良くなりたくない王様だとしても。    ここからの風景を堪能したあと、道具を用意して、絵を描き始める。王様も少し離れて隣で何かを描いている。何だろう? 「それでは失礼する。帰りは気をつけて帰るように」 「お心遣いありがとうございます。気をつけて帰ります」  王様は視察に戻った。私も絵を書き終えたので、王様に頂いたお菓子を食べることにした。    これ、めっちゃおいしい!家族にも残してあげたいけれど、止まらない。    ……王様。優しいけれど、タイプではないのです。ごめんなさい。ジュウォン兄さんと結婚したいのです。そう思いながら王様の座っていた場所を切ない目で見る。  あれ?筆入れが落ちてる。  誰のだろう?    筆入れを拾って、何か目印はないか探してみた。すると龍の印を見つけた。  あ、これ王様のだわ。お父様経由で返そう。回収して巾着に入れる。 「折角だからお参りして帰ろう」    お堂への階段を上がっていると、ドラマの記憶がフラッシュバックしてきた。    あ、これあかんやつ。ドラマを思い出して冷や汗が出てくる…。    ここでソユンは死体を発見する。お堂にさっき買った筆を落として、店経由で身元がバレて、口封じに処分されそうになる。この事件は物語の大きな軸となっていて、後に何度も命を狙われるのだ。  その度に王様と兄さんが助けてくれるんだけど……。  そんな厄介事まっぴらごめんだよ!退散しよ。退散、退散、とっとと退散!      ほら、隙間からなんかぐったりした手が見えるよ……。フラグ立ってるよ。     くるりとお堂に背中を向けて帰ろうとしたその時、何者かに口を塞がれた。  あーっ!手遅れだったの?うおっ、なんか被せてきたっ!    くそっ!こうなったら……。    ──薄れ行く意識の中で王様の筆入れをしっかり握った。
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