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ミッション5 王様のご機嫌をとれ
カフェの準備に忙しい日々を過ごしていたら季節はすっかり夏になっていた。
ドラマでは先の刑曹判書の事件で殺されかけたり色々あったが、その事件は解決済みだったので何事もなく……カフェを開く予定の屋敷にちょいちょい王様がやってくる意外、平和に暮らしていた。(王様との仲が深まる刑曹判書の事件の代わりに、カフェのイベントが発生したのかも知れない)
まあ、王様の護衛でジュウォン兄さんも来ることがあるので、それは嬉しいかな。
しょっちゅう来るもんだから、私が王様の側室、あわよくば王妃になるのではとお父様が期待して舞い上がっている。
私なんかより、後ろ盾もしっかりしていて、完璧な淑女に生まれ変わったシアの方が相応しいだろう。実際、王様のシアに対する好感度もそんなに悪くないと思われる。
そろそろ来るな……。
「ソユン殿はおいでか?」
いつも通り、ソン内官様の声。
ちなみに今日の護衛はジュウォン兄さん!やったぁ!
「王様、お待ちしておりました。今日はあんみつを作ってみました」
ここでは目新しい和食を中心に出すことにした。シアのパパンの力で食材は結構何でも手に入った。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
シアが王様を席へ案内する。私はあんみつを用意して王様にお出しする。
王様とシアは世間話をしているようだ。この二人もだいぶ打ち解けてきたように思う。
「どうぞ」
王様は寒天を一つとあんこを少しすくって口に入れた。
「これは食欲の落ちる夏に良いな」
「でしょう?」
ジュウォン兄さんもにっこり頷いてくれた。ソン内官様は無言でもくもくと食べている。
「いつ開店するのだ?」
「三日後です」
「そうか、時間があればまた寄ろう」
「はい、お待ちしております」
王様はあんみつを試食したあとすぐに帰ってしまった。忙しい中、時間を作って来てくださっているのだろう。
「ところで、シア。王様とはどんな感じなの?」
「うーん、私がどうこうって隙はないな。ありゃ、完全にお姉ちゃんに惚れてるよ。いつも目で追ってるわ」
「そっか……(遠い目)、心苦しいけれど、私はやっぱりジュウォン兄さん派だわ」
「王様、撃沈……。私……家の没落だけはどうしても避けたい。家が没落して家族が苦しむ姿を見たくない。だから、王妃が無理なら家の評判を上げるためにも、この慈善事業に励むわ」
「右議政様も協力的だし、それもいいかもね。私もできる限り協力するからね!……じゃあ、あとはお願いします」
「うん、いってらっしゃい」
今日は午後から休みなのだ。久しぶりに沢に絵を描きに行くつもりだ。
◇◇◇
「着いた~」
山道を逸れて沢に下りた。
木々が薄い影をつくっていて、岩の間をちょろちょろと流れるせせらぎの音が心地良い。大きな岩の下にたまった水は透き通っていて、手を入れると冷たかった。
「ソユンではないか」
この声は……
「ジュウォン兄さん!」
山道から兄さんが降りてくる。すかさず駆け寄って抱きつく。今まで王様が近くにいたからできなかったよ。兄さんが非番の時に会うこともなかったし。はぁ~、落ち着くよ~。
「ソユン……ソユン……」
兄さんが慌てている。
「ん?」
「ソユン、王様が……」
──ガン見している!
私服だけど非番じゃなかったのね……。
兄さんがいるってことはいらっしゃるよね……。
兄さんは落ちていた房飾りを拾って懐にしまった。落とし物を拾いにきたのね。
何事もなかったように王様から目を反らし、大きな岩がたくさん集まっている場所に向かった。
岩の上に登りたかったが、岩が大きくて登れなかった。それを見たジュウォン兄さんが、先回りしてさりげなく手を引っ張ってくれた。
はぁ~、素敵。紳士。
岩に座って絵を描く準備をしていたら王様が声を掛けてきた。
「ソユン」
「なんでございましょう」
「さっきのは何だ?」
「え?何のことですか?」
「さっき、ソ武官と……」
「前にも申し上げましたが、あれは挨拶です」
「挨拶ならば、私にも……」
「え?」
ヤだよ。無理だよ。
「これ、カン·ソユン。無礼ではないか!」
ソン内官様に怒られる。
「申し訳ありません」
「良い、そう怒るな」
「全く、そんな態度で許して貰えるのはあなただけですよ!」
……仕方ないなぁ。怒られるのは嫌だからやってやるか。兄さんがとばっちりで咎められたら申し訳ないから、ご機嫌とっとこ。
「オウサマー」
ちょっと遠慮して抱きつく。はぁー、いいにおい。ジュウォン兄さんとは別の何かがあるな。これはこれで悪くはない。……おっと、危ない危ない!ブレるところだった!
王様は無言で固まっていた。
「……?どうされました?」
「いや、何でもない」
抱きついた王様から離れて岩に座る。王様も隣に座る。
「あ、そういえば王様はなぜここにいらっしゃったのですか?」
「この辺で山賊の目撃情報があってな」
「え?こわ……」
それで護衛が多いのか。兄さん以外の護衛は山道で待機している。
「後で街まで送っていこう」
「ありがとうございます」
助かったよ~。ありがとう王様。
「ソユンは絵を描くのが好きだったな。私を描いてくれないか?」
「え!王様をですか」
ちょ、ソン内官様めっちゃ怖い。睨まないで。否定は許さん!的な圧すげぇ。描きますよ。
イケメンの王様と見つめあって絵を描く。たまに目が合って、にっこり微笑んでくれる。こんなシチュエーションなら恋に落ちる女子も多いだろう。私は落ちないけれどね。
というか、私……人物苦手だわ。やば……。
「どうかしたか?」
「……私、人物画どうも苦手で……」
「見せよ」
「いや、ちよっとお見せできるものでは……」
「いいから見せよ」
王様が絵を覗きこむ。うおっ顔近いっ。
「なんだこれは?」
「だから苦手っていったじゃないですか……」
なんだろう、たぶん下手ではない。画風が……昔の少女漫画風になってしまった……。
「すみません……」
あ、ソン内官、さっき笑ったな!兄さんも苦笑している。
「この絵は私が頂こう」
まぁ、当の王様が嬉しそうだからいいや。
「暗くなると危ない。そろそろ山を下りよう」
王様が手を差しのべてくれた。岩を下りて山道にいる護衛官たちと合流する。
──その時だった。
爆発音がして、皆が怯んだ隙に私は何者かにさらわれた。
「ソユン!」
私を呼ぶ王様の声が山に響いていた。
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