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ミッション6 四角関係?!
うおっ、山賊!?
ヤバイ。助けて!手足を振り乱して必死に抵抗する。
「痛っ!」大きな枝で足首を引っ掻いたようだ。
抵抗虚しく、私はどこかの洞窟に押し込まれた。
「あいつ金持ちそうだから、身代金ふんだくれそうだな」
「あぁ、いい獲物をみつけた」
あいつ?……お前ら、あの方は王様だぞ。王様も護衛も官服や軍服を着ていないから分からないだろうけどな。護衛は優秀だからすぐ来るぞ。
……多分。
来るよね?……来てー!
「兄者、やつら追ってきたぞ」
「チッ、おい女、お前はここに居ろよ。逃げたらぶっ殺すからな」
こっわ。めっちゃぶっそう。
外で刀のぶつかり合う音がする。こっそり外の様子を伺うと、ジュウォン兄さんが山賊と戦っている。つ、強い!カッコいい!頑張れー!
「くっそ、こいつ強すぎる」
「ずらがろうぜ!」
「大丈夫か?ソユン」
「ジュウォン兄さん!」
こういう時、いつも助けに来てくれる。
「擦りむいているな」
ジュウォン兄さんは、手拭いを懐から出して足首の傷に巻いてくれた。
「さ、王様が心配している、行こう」
「兄さん、もみ合ったときに靴を落としたの」
ジュウォン兄さんが辺りを探してくれたが、靴は見つからない。
「背中に乗れ」
「でも重いよ?」
「大丈夫だ。さぁ」
大きな背中におぶさる。兄さんにくっつくと落ち着く。
「兄さん、いつもありがとう」
「ん?可愛いソユンのためだ。何てことはない」
はぁー、いつも素敵なんだ。
「兄さん、大好きだよ」
「俺もだよ、ソユン」
兄さんの背中の心地よさにいつの間にか眠っていた。
◇◇◇
目覚めると自分の部屋にいた。私が目覚めたと分かると、側についていた使用人が誰かを呼びに行った。
「お嬢様、入ってよろしいですか」
「どうぞ」
起き上がって身構える。
「ソユン……」
「……王様!なぜこんなところに!?」
「すまない。そなたを守れずに怪我をさせてしまった……怖い思いをしたのだろう、お前は今まで気を失っていた」
「え?気を失う?」
「ソ武官に背負われ、私の元に戻ったときには気を失っていた」
「……なんかすみません……それは違います。寝ていただけです……」
「え?」
王様、めっちゃ戸惑ってるよ。そりゃそうだ。寝てただけだから。
「寝てました!ご心配かけてすみません!」
「そうか、それならそれで良い」
王様は優しく微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
王様も優しいんだよ。お忙しいのに、私が目覚めるまで待っててくれたなんて……。こんな下々の者にも優しいんだよ。
「そうだ、ソユン。今度、一緒に出かけないか?」
……何でだろう、行ってもいいかな?という気持ちになった。前の私なら断っただろうけど。
「そうですね。行きましょう!」
「ではまた連絡する。今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
なぜだか素直にそう言えた。
「……」
王様は私の顔を見て固まっている。
「……どうかされましたか?」
「そなた、笑うと……いや……何でもない。では失礼する」
◇◇◇
カフェオープンの日が来た!
カフェの名前は海。前世の名字、海野からとった。海は近くにないけどね。まぁ、海のように広い心で皆を受け入れるってことで!
オープン記念日の今日は、子供限定で無料のどら焼きを配る。本当は希望する子供全員に配りたいけれど、そうもいかないので、個数制限有りにした。
明日からは、昼間は大人向けのカフェ、夕方を格安のこどもカフェにする。昼間の稼ぎを夕方に回して運営するため二部制だ。お金がなくて代金を払えない子供にはカフェの手伝いをしてもらう。
「お姉ちゃん、その靴どうしたの?」
「あぁ、これ?……王様にもらった」
酔芙蓉の刺繍が施された水色の靴。酔芙蓉の花が、白からピンクへと変わる様を表現していて、グラデーションがとても綺麗な逸品だ。
「ええ~!」
「ほら、山賊に襲われたとき靴を失くしてさ……気にかけて下さってたみたい」
「それドラマではジュウォンさんが買ってくれるんやで……」
「…………そうだっだ!」
「私の方は、念のためパパンをずっと見張っているけれど、今のところ何も動きはないよ。お姉ちゃんの方にだけ修正が入ってきてる?」
「うん……そうかも」
運命から逃げられる気がしないんだけど。複雑な気分だわ。私の意思はどうなるのよ……。シアの家の方は今のところ大丈夫そう?
「あ、噂をすれば……来たよ!ほら、行ってあげなよ」
「ちよっと、応援しないでよ!」
「王様はお姉ちゃんが大好きなんだよ。パパンもこの慈善事業に励んでて、悪いことしなさそうだし。私は何のしがらみもない好きな人をみつけて恋愛を楽しむよ。ほら、待ってるから早く行ってあげて!」
「分かったよ……待たすのは申し訳ないから行くよ」
「王様、ようこそおいでくださいました」
非番の兄さんも来ている!兄さんにもにっこり微笑む。
「開店おめでとう」
王様は大きな花束をくれた。
「わぁ、ありがとうございます」
「その靴、似合っている」
「酔芙蓉の刺繍が綺麗で気に入ってます。ありがとうございます」
「良かったですね」
ソン内官様が王様に言った。王様は嬉しそうだ。──この方はとても純粋だ。だから好意を無下にできないんだ。
「たくさん子供が集まっているな」
「はい。用意したお菓子が足りるといいのですが……」
「シア殿は?」
「あちらでお菓子を並べています。並べ終えたら配り始めます。私も手伝ってきますね。お座りになってお待ちください」
「いや、私も一緒にやらせてくれ」
シアがどら焼きの入った重い番重を運んでいるのが見えた。あれは運ぶのが大変だわ。手伝わないと!
と、思ったらジュウォン兄さんが走っていって、とっさにフォローした。
(シアはこのカフェでは自分で全てやると言って、使用人を連れてきていない)
お、ちょっと待て、え?なんかいい雰囲気じゃない?え?勘違い?
ドラマでは私をいじめるシアをジュウォン兄さんは敵視してたんだけど……。今のシアはとてもしっかりした素敵な淑女になってる。敵視する理由がない。ちょっと複雑な気分……。
どら焼きを並べ終えると、私とシア、王様とジュウォン兄さんの四人でどら焼きを配った。どら焼きはすぐになくなった。
「大繁盛だったな」
「ええ。貰えなかった子供がいたのは心苦しいですか、こちらも無限に出せるわけではありませんので、仕方ありません」
シアと王様が会話をしている。
美男美女でお似合いなんだけれど。シアはしっかりしてるし……。
でも、さっきのジュウォン兄さんとの雰囲気とはまた違う。ジュウォン兄さんとの雰囲気の方が気兼ねしてなくてシアが自然体な気がする。そりゃ、王様と話すのは身構える(一応)けれど。なんだ、このモヤモヤは。
「王様、昼食の準備をしようと思うのですが、こちらでお召し上がりになりますか」
シアが尋ねる。
「あぁ、頂こう」
「私も手伝おう」
ジュウォン兄さんがシアと行ってしまった。厨房を見ると仲良さげに料理をしている。
うおー、やっぱりあの二人いい雰囲気じゃん!
兄さん、どうなってるのよ!
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