ろくでもない人生と、ろくでもない幸せ【短編】

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「刺したけどよくわからない」 「わからなくてもいいんじゃないかな。俺もわからないことだらけだよ」 「わからないけど結婚したい」  元の道生が幸せだったかはわからないけど、俺たちと過ごした二〇年分の道生の幸せと不幸せはなくなってしまった。欠けた部分を追いかけてももう、仕方がないんだなとその頃にはすでに思っていた。  今の道生は前の道生と違う。  けれども俺も安穂も結局のところ道生が好きで、今なんとか残っている道生を失いたくはなかった。道生はとても不安定だ。二〇年という時間は道生の人生の半分より随分多く、ともすればその喪失の方に精神が偏ってしまう。嬉しいことと悲しいことの区別がつかない道生は死んでいる状態と生きている状態のどちらがいいのか判断がつかない。だから生きてる方につなぎとめるために、道生自身に残った何かの残滓が幸せとか結婚を求めているのかなと思う。それが昨晩電話で安穂と話し合った結論だ。  俺も安穂も道生に死んでほしくなかったし失うのは耐え難かった。 「結婚してもわからないかもよ」 「それでもいい」 「お前が幸せになるにはどうしたらいいんだろうね」
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