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安穂が好きなのはかつての道生で今の道生は中身が違う見知らぬ存在。混同すればするほど結婚なんて受け入れがたい。だけど、安穂は違う人間としてもう一度道生に巡り合うことに同意した。だからその前に、かつての道生と別れなければ。別れて、今の道生と以前の道生が違う存在だと区別する。
頭ではわかっても心では違う。安穂の瞳から雫が落ちた。出会うために、別れている。
「私は道生が好きだったけど、あなたじゃない。だから今あなたにプロポーズされるのは数少ないいい思い出を汚さるたみたいで本当に腹立たしい」
「そうですか」
安穂のひどく複雑な表情と道生のぼんやりした表情が対照的で、膝の上の道香が不安そうに眺めて上げている。
安穂は歯を食いしばる。
道生は死んだ。
死んでしまったんだ。
残酷な現実をつきつける、繰り返される道生のプロポーズ。
かつての道生はもう戻らない
安穂はフゥッと強く生きを吐き出し、瞳に力を取り戻す。
「……はじめまして」
「安穂さん?」
「私とあなたは出会ったばかりであなたは知らない人。だから、今は結婚とか考えられない」
「そうですか」
「知らない人とは結婚できない」
「うん、そうか」
「だから、知り合いになりましょう。話にならないわ」
「わかりました」
安穂は今の道生と改めて巡り合って、この巡り合わせが良いものなら、おそらく幸せは訪れる、のかも。
Fin
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