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「棚沢先生がね、結婚したいなら女の人を紹介してくれるんだって」
「そうか」
「でもこれまで色々紹介してもらったけどうまくいかなかったじゃん。どうしようかなと思って」
「まあ、うまくはいかないだろうさ」
「やっぱりそうなのかな」
道生は結婚したがっている。道生にとって結婚は幸せのイメージなんだろう。道生は幸せになりたがっている。けれども色々伴わない。道生は半分欠けている。事故の後遺症だ。だから結婚するには半人分足りない。足りないものというのは自分では理解できない。足りないんだから。
「まともに会話できないだろ」
「してるつもりだけど」
「そうだな」
「うん」
棚沢画伯は抽象画家だ。キャンバス上に○や△を構成する。一度見せてもらったが、道生かどころか人なのかもパッと見わからなかった。だけど棚沢画伯の絵は現在の道生を正確に描写しているようにも思えた。
今の道生はそのような抽象的なもの。情報が足りない。あやふやでのれんに腕押し。踏み込むとふわふわ姿が見えなくなる。
画家の家は高台にある。夏の六時はまだ明るいけれど、陽炎のくすぶる帰り道の坂を下る。そうするとほんのり明るい白が灯り始めたどこか懐かしい木造建築郡が姿を現す。それを大きく迂回しながら問いかける。
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