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何度かコール音は鳴り響くが、電話にはなかなか相手が出なかった。その内、電話は留守番電話に変わった。
耳からスマホを離す美咲の様子を目の前で見ていた由奈は、結果はわかっていても「どうだった?」と聞いてあげた。そこは由奈の優しさでもあった。
美咲は首を左右に振る。
その姿を見て由奈は大きく肩を落として椅子の背もたれに寄り掛かった。
美咲はスマホを両手で握るように持ちながら、テーブルの上に下ろすと、堪え切れずに大粒の涙を流して泣き出した。
由奈がそっと席を立つと、美咲の隣りの席に座り、静かに優しく美咲の肩を自分の胸に抱き寄せた。体格的には美咲の方が少し大きいが、それでも、年上の優しさが美咲の悲しむ体を心事包んでいた。
どれくらい美咲は泣いていたのか。本人も由奈もわからなかった。
それでも、夕方になった時間で学校帰りの女子生徒がクレープを買いに来たので、由奈は美咲に「ごめんね・・・」と一言謝って、クレープを調理するキッチンへ行き、注文を受けてクレープを作り始めた。
その間、新しいカフェラテを淹れてくれたマスターの誠一郎が、「徹平君・・・、もしかしたら優勝したから、次の大会に向けて忙しいのかもしれないよ・・・」と心配して声を掛けてくれた。
「そうなのかな・・・」
まだ涙声の美咲は、新しく淹れてくれたカフェラテを少し口に入れた。
「ありがとうございました・・・」
由奈がクレープを買ってくれた女子高生にお礼の言葉をいうと、そそくさと美咲の所へ戻ってきた。
「で・・・、美咲ちゃんは、どうしたいの・・・?」
由奈の質問に、美咲は何て答えれば良いのかわからなかった。
そもそも、その答えを求めてここに来たのも同然だったからだ。
美咲は黙ったまま、窓の外に茜色に染まる海を眺めていた。その景色が自分の悲しみに包まれた心を優しく、そして温かく包んでくれるようだ・・・。
「仕事も・・・、辞めちゃったし・・・。由奈さん・・・、また、ここで働かせてくれませんか・・・?」
美咲はようやく、自分の心の声を口に出せた気分だった。
「えっ・・・、それは別にいいけど・・・」
由奈は誠一郎と目を合わせた。が、誠一郎は『うん・・・』ち頷くだけだった。
由奈は少し考えてから、「わかった・・・。また、美咲ちゃん、宜しくね」と美咲に声を掛けた。
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