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混乱する。……緊急事態なら全員を起こすべきでは。異常は明らかだろう? 私では対処できない。
そう思って思い出す。アルベルトの非解除申請。ハッチを開く前はアルベルトのバイタルは反応していた、つまり生きていた。私がハッチを開けたから……死んだ?
いやまさか。起床ボタンを押そうとして思い起こす。肉体が解凍されると汚染の影響が顕在化する。つまり、崩壊が始まる。私はハッチが出て以降、異常が増大している。つまり起こすと、ユフの効果が始まる、のか。
起こすと、全員、死ぬ。そういうことか。
視界がぐらりとゆれた。頭がうなる。思わず瞼を手で抑えると、妙にどろりとした触感で思わず手を遠ざけると汗のようなものがたくさん飛び散った。汗、だよな?
駄目だ、起こせない。起こしてどうする。体内のユフが芽吹くだけだ。遺伝学者が対処できない遺伝子変化。だがこのまま順番に起きても250年以内に全員死ぬ。いや、高齢者と子供と欠番はスキップ。コロニーが滅ぶまで150年強? この150年でユフは全く減衰していない。駄目だそれでは順番に死ぬだけだ。
方法。強制延長のボタン。緊急事態に、起床を長期間先延ばしにして更に遠い未来に委ねる手段。だがその間管理ができない。その間根によってまた破損するかも。
一か八か。ただでさえ長時間スリープの危険性なんて不明。だがそれしかない。このままでは死ぬだけだ。コロニーが生き残るためには延長しなければ。
内蔵を絞るようにに深く息を吐く。
破壊されたポッド。死が約束された今起きても死ぬかポッドで再度眠るだけだ。それなら未来に賭けたほうがいい。多分、この決断をできる者は少ない。27年、誰もできなかった。だから私がやらなければ。
震える指で起床時間を500年遅らせた。遠い未来にユフ毒の毒性が薄まっていることを期待して。起きた時、不調があれば再度500年伸ばすよう『指示』を付けて。こうすれば、次に死ぬものの罪悪感が少し薄れる。
ふう、と息を吐く。外の明るい光は変わらず真っ暗なセンターに降り注いでいる。どうせ死ぬなら私もこの冷たく暗い牢獄より狂って騒がしく明るい外がいい。
11人目となって振り返る。死んだように静まり返る灰色の円形のドーム。遠い先で目が覚めた時、残された者が未来を紡いでいけるように。思わず漏れた呟き。
それまで、おやすみ。
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