二人の天使

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 アルベールは少女に座るよう手で促し、ジェラルドは自分の隣の椅子を後ろへ下げ顎でくいと示した。 「どうぞ」  アルベールの青い()に捉えられた少女は、こくりとその場で頷いた。依然疑いの目を彼に向けながらも、その足は着実にカウンターの方へと向かっていた。隣にいたジェラルドに小さな会釈をし、恐る恐る腰を下ろす。アルベールも厨房へと戻った。 「コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」 「……紅茶でお願いします」  アルベールは茶葉を取り出し、早速準備にかかる。ジェラルドは胸ポケットから煙草とライターを取り出し、吸い始めた。 「今日は日曜日か。学校が休みってわけだな」  少女は首肯した。 「まさか日曜日の朝からこんなことになるなんて……」  少女の手は震えていた。 「お嬢ちゃん、大丈夫か?」  心配するジェラルドをよそに、少女は黙り込んだ。 「どうぞ、イチゴのフレーバーティーです」アルベールは少女の前に笑顔で紅茶を出した後、今度はジェラルドの方に微笑みかけ、コーヒーカップを置く。「すっかり待ちぼうけを食らってしまいましたね」  アルベールがジェラルドに出したのは、猫の顔が描かれたデザイン・カプチーノ。少女はぽかんとした表情でジェラルドとコーヒーを交互に見ている。 「……ヤッベ、お嬢ちゃんに見られちまったな」ジェラルドはバリバリと頭を掻き、大きな溜め息をついた。「まあ、人間なんざこんなもんさ。この俺が言うのもなんだが、その……ギャップって奴も悪くはないだろう?」  彼は咥えていた煙草を灰皿に押しやる。 「あなたの場合は相当だと思いますがね。可愛い物とは無縁な、いかにもハードボイルドを好みそうな男に見えますよ」  アルベールのツッコミに思わずつまるジェラルドだったが、まもなく悪態をつく。 「……悪かったな、イメージをぶっ壊しちまって」  二人のやり取りを見ていた少女は、ようやく声を立てて笑った。 「最初は怖い人だと思ったのに、意外と可愛らしい人」 「……アルベールには最初から見抜かれていたけどな」 「あなたが初めてこの店を訪れた時のことは昨日のように覚えていますよ。エスプレッソを我慢しながら飲むあなたの姿を見て、もしやと思いましてね。苦いのはあまりお好きではないのかと」 「恥ずかしくてな。今まで何度店を転々としたことか。下手に常連客にでもなりゃ、『あの客、いっつもこんなもんばっか頼みやがって』とか、陰口叩かれそうだからな。パリにはカフェなんざごまんとある。だが、こうやって恥さらしながら飲んでも良いと思えたのは、ここが初めてさ」  そう言いながら満足げにコーヒーに口をつけるジェラルドの横で、少女はカップに入った紅茶を黙って眺めていた。真っ赤な水面に浮かぶ少女の不安げな表情。少女の顔は次第に水面へと近づく。ほのかに香る、甘酸っぱいイチゴの匂いにわずかでも癒しを感じ取ったのか、彼女の顔は少しだけ綻んだ。「ふぅふぅ」と、熱い紅茶を冷まそうとする仕草を見せた後、ゆっくりと口を近づけた。 「美味しい!」 「それは良かったです」  アルベールが柔らかく笑むと、少女はもう一度紅茶に口をつけ、大きく息を吐いた。 「……妹が突然姿を消したんです。朝起きたら、急にいなくなっていて……」
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