二人の天使

5/10
前へ
/10ページ
次へ
「妹さんの行動に不審な点は?」 「いいえ、もしかしたら誘拐かも。でも、昨日の晩は私より早くに寝ていたから……朝までぐっすり寝て、物音なんて聞こえなかったし」  少女の目は潤んでいた。 「僕はここのオーナーをしているアルベール・リュフィエ。隣の彼はここの常連客でジェラルド・カイレ。宜しければ、あなたと妹さんのお名前をお伺い出来ますか?」 「私はソフィ・ジャンメール。妹はマリエットよ」 「ソフィさんとマリエットさんですね」  アルベールはそう言いながら、後ろの棚から分厚い一冊の本を取り出した。タイトルらしい文字は見当たらず、本には小さな南京錠がかかっていた。 「これは?」  ソフィは訝しげに本を見つめた。 「コイツの商売道具さ。探し物がどこにあるのかを教えてくれる大切な道標(みちしるべ)ってわけだ」  ジェラルドの説明に納得がいかないのか、ソフィは大きく首を傾げる。アルベールは構わず本の上に手をかざした。 「我の前に真の姿を示せ」 「カチャッ」と金属音を立て、南京錠はひとりでに外れた。 「鍵もないのに、どうして?」  ソフィは瞠目した。 「強いて言うなら、アルベールがコイツの鍵だな。アルベールじゃないと、中の文字も読めない……いや、って言った方が正しいか」 「開け」  アルベールが手をかざしながら唱えると、本はパラパラと音を立てたが、たちまち動かなくなった。 「なるほど、どうやら誘拐ではないようです。あと考えられるのは、マリエットさんが自らの意思で出て行ったこと……」 「自分の意思で⁉」  ソフィは目を見開いた。 「ええ。ですが、僕にとっても、にとっても、もう少しヒントになるようなものがあるとありがたいのですが」 「グリモアって……魔導書?」 「この本のことです。まあ、正確にはこのに入っているものを指すのですが」  アルベールは先程の本の上に手を置いた。 「仮に自分の意思だとしたら、何かきっかけになる出来事があったはずです。それが果たして何なのか。ソフィさん、あなたの身の回りで、ここ数日のうちに何か変わった出来事はありませんでしたか?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加