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「妹さんの行動に不審な点は?」
「いいえ、もしかしたら誘拐かも。でも、昨日の晩は私より早くに寝ていたから……朝までぐっすり寝て、物音なんて聞こえなかったし」
少女の目は潤んでいた。
「僕はここのオーナーをしているアルベール・リュフィエ。隣の彼はここの常連客でジェラルド・カイレ。宜しければ、あなたと妹さんのお名前をお伺い出来ますか?」
「私はソフィ・ジャンメール。妹はマリエットよ」
「ソフィさんとマリエットさんですね」
アルベールはそう言いながら、後ろの棚から分厚い一冊の本を取り出した。タイトルらしい文字は見当たらず、本には小さな南京錠がかかっていた。
「これは?」
ソフィは訝しげに本を見つめた。
「コイツの商売道具さ。探し物がどこにあるのかを教えてくれる大切な道標ってわけだ」
ジェラルドの説明に納得がいかないのか、ソフィは大きく首を傾げる。アルベールは構わず本の上に手をかざした。
「我の前に真の姿を示せ」
「カチャッ」と金属音を立て、南京錠はひとりでに外れた。
「鍵もないのに、どうして?」
ソフィは瞠目した。
「強いて言うなら、アルベールがコイツの鍵だな。アルベールじゃないと、中の文字も読めない……いや、見えないって言った方が正しいか」
「開け」
アルベールが手をかざしながら唱えると、本はパラパラと音を立てたが、たちまち動かなくなった。
「なるほど、どうやら誘拐ではないようです。あと考えられるのは、マリエットさんが自らの意思で出て行ったこと……」
「自分の意思で⁉」
ソフィは目を見開いた。
「ええ。ですが、僕にとっても、グリモアにとっても、もう少しヒントになるようなものがあるとありがたいのですが」
「グリモアって……魔導書?」
「この本のことです。まあ、正確にはこの中に入っているものを指すのですが」
アルベールは先程の本の上に手を置いた。
「仮に自分の意思だとしたら、何かきっかけになる出来事があったはずです。それが果たして何なのか。ソフィさん、あなたの身の回りで、ここ数日のうちに何か変わった出来事はありませんでしたか?」
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