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アルベールは栞――グリモアの上にもう片方の手を置く。グリモアは栞から次第にその形を変え、ドーム型の置物になった。アルベールがカウンターに置くと、ジェラルドとソフィの視線が一気にグリモアへ集まる。
「可愛い……スノードーム? 中にあるのはエッフェル塔? これがマリエットとどう関係があるのかしら」
「恐らくマリエットさんはこの物が近くにあるところにいるか、あるいは手に持っている最中かもしれません。試しに行ってみましょうか、エッフェル塔に」
「そうか、エッフェル塔の土産コーナーか。あそこなら確かに栞ぐらい置いてありそうなもんだ。同じ奴があるかどうかは別として」ジェラルドは残りのコーヒーを一気に飲み干し、席から立ち上がった。「行こうぜ、お嬢ちゃん。すぐに行けば、会えるかもしれないぜ」
「そうですね。さっきの紅茶、おいくらかしら?」
ハンドバッグから財布を取り出そうとするソフィを、アルベールは手で制止する。
「今はまだお代はいりませんよ。あくまで今のはカフェのお客様としてではなく、依頼人のあなたへのお茶出しに過ぎません。依頼の対価は後程いただきましょう」
「対価って?」
「笑顔で、ここのお手伝いをしてもらうことです」
アルベールの言葉を飲み込めないでいるソフィだったが、ジェラルドは「まあ、後で分かるさ」の一言で片づけ、帽子を被り直した。
「急ぎましょう」
アルベールは店のドアを開け、「準備中」と書かれたプレートをかける。それが終わると、内側から鍵をかけた。
「あれ? 外に行くんじゃ……」
ソフィの問いに対し、ジェラルドが代わりに答える。
「コイツが連れて行ってくれるんだよ」
ジェラルドはカウンターに置かれたグリモアを親指で示した。
「グリモアって、何でも出来るのね」
「我の前に出でよ、Horloge de l’espace」
アルベールがグリモアの上に手を置き唱えるや否や、グリモアは銀色の懐中時計に形を変えた。文字盤には青い小さな石がついている。
「綺麗な時計……」
ソフィがみとれる横で、アルベールは何事もなくグリモアを左手に取る。
「行きましょう、ソフィさん。僕の手につかまってください」
アルベールは柔らかい笑みを浮かべながらソフィの前に右手を出した。
「え、えっと……」
「時間がない。お嬢ちゃん、早くアルベールの手をとれ」
頬を赤くし、アルベールにつかまるのを躊躇するソフィに対し、しびれを切らしたジェラルドが急かす。
「は、はい!」
ソフィはアルベールの手を恐る恐る握った。ジェラルドもアルベールの肩の上に手を置く。もう片方の手には先程のカバンがしっかりと握られていた。
「重そうなカバン……」
興味津々で見つめるソフィ。
「俺の商売道具だからな。仕事柄、コイツがないと安心出来ねぇんだ。おい、アルベール。いつでも良いぜ」
「では、参りましょうか。グリモア、エッフェル塔へ」
時計の針がくるくると回り出す。三人の姿はあっという間に店内から消えた。
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