4−2

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 翌朝、龍巳の家を出た暁は、仕事に行く前にある人物に連絡を入れることにした。電話をかけると、ワンコールで相手は出た。 「……暁?」 「うん。ごめん。ずっと電話に出られなくて」 「ううん。俺の方こそ、自分から別れ話したのにしつこかっただろ」 「全然」  電話の相手は、別れたばかりの元恋人、滉一だ。実は昨夜、電話の履歴を調べると、春音の他に滉一からも何回かかかってきていた。メッセージでは一言謝りたいとあり、かけてみることにしたのだ。   「メッセージで謝りたいとか言ってたけど、俺は全然……」 「暁、ごめん」  気にしてない、と言いかけた声に被さるようにして、滉一が謝ってきた。 「いや、だから俺は気にしてないって」 「それでも。俺はせめて、暁の理由を聞くべきだった。急かしたり、勝手に思い込んだりせずに、暁が話してくれるまで待つべきだったんだ」 「……」  また、春音のように理由を言えと言われるだろうか。身構えかけた時、滉一の言葉がするりと入ってきた。 「言ってなかったけど、俺、警察官やっていてさ。言い訳に聞こえるだろうけど、疑うのが仕事で……」 「滉一?」 「ん?」 「頼みがある。俺の両親の死の真相を突き止めたいんだ。協力してくれないか」 「……死の、真相?殺されたとか?」  その犯人が龍巳かもしれないとはまだ言えなかった。 「……いや。それも分からないから、調べたいんだ」  沈黙が返ってくる。やっぱりだめかと思いかけたが。 「分かった。過去の事件や事故の資料を見せてもらえないか聞いてみる。できればフルネームと、何年ぐらい前のことかを教えてくれ」 「フルネームは……また調べたら言う。年数は、恐らく二十年くらい前の……」  話を終え、電話を切る。暁に包丁を持たせようとした龍巳が脳裏に過る。まだ確かな証拠を掴むまでは、龍巳の言葉を鵜呑(うの)みにするわけにはいかなかった。  滉一に任せきりにせずに、自分の方でも調べてみることにして、これからのことを考え始めた。
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