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やすむ、やすむ。
食いしん坊な嫁を持つと苦労する。
主に、常に金欠と食糧不足に悩まされるという意味で。
「嫌な予感はしてたんだよ」
僕はげっそりつ疲れ果てながら言った。
「あの大量のおにぎりとサンドイッチとスナック菓子は何処に消えたんですかね、歩美殿?」
「……ゴメンナサイ」
「この未来はわかりきってたと思うんだ。だからさあ、もっと簡単に登って降りて来られる山にしようつったんじゃん。絶対途中でお腹すいたって騒ぐことになるんだからさあ」
「……ソウデスネ」
すっかり棒読みになっているのは、その僕の悩みの種、美人だけど超大食いな奥さんの歩美である。この細い身体の一体どこに、あれだけの食糧が入るのかわからない。まあ、某大食い選手権の決勝大会まで行ったほどの女性だ。食品代にお金がかかる、のは結婚前からわかっていたこと。それでも一緒になることを選ぶくらい、彼女にベタ惚れであるのは間違いないのだが。
現在僕と歩美は、二人でとある山に登っている最中である。太ったら困るし!と唐突にダイエットを思いついたらしい誰かさん。友人達との間で、ハイキングが話題になって自分でも行きたくなったのだそうだ。まだ二十代の歩美とは違い、近所の奥様方には四十五十も珍しくないから余計、健康志向の話に行がちなのだろう。
まあ、僕も体を動かすのは嫌いじゃない。今でこそデスクワークのために座って仕事をすることが多いが、これでも大学時代はバスケットボール部に所属するバリバリのスポーツマンだったのだ。しかも、体でのぶつかり合いも少なくないパワーフォワードのポジションである(本来派手にぶつかり合ってはいけないスポーツのはずなのだが、暗黙の了解とも言うべきか、良いポジション取りをするためにゴール下で押し合ったりすることは少なくなかったりするのだ)。
細身に見えて、結構脱いだら凄いんですのタイプだと自負している。今でも仕事が休みの日には、週一か週二でジム通いを欠かせていない。ゆえに、ちょっとした山登りくらいは体力的にはさほど問題がないのだが。
問題は、歩美である。
食べ物がすぐに買えない場所に行くとすぐ悪い癖が出る。おなかすいたーを連呼して我慢がきかなくなるのだ。山登りは楽しいが、麓の町のように数十メートルごとにコンビニやレストランがあるなんて環境ではないのである。
よって、登る前に大量に食料品を買いこんで、リュックにぎゅうぎゅうに詰め込んで来たわけだったのだが。
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