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夜明けのメレディス
おやすみ、と言われるのは嫌い。
でもおはよう、は好き。新しい朝が来るとほっとする。そう思うのはきっと、私だけではないはずである。
「おはよう、優子」
甘い声に目を覚ますと、目の前には大好きな人の顔が。私は反射的に、彼の首に抱きついていた。こちらを覗き込んでいたその人がバランスを崩して倒れ込んでくる。ベッドの上で、恋人同士がもつれあう。見る人間によっては大きく誤解されそうなシチュエーションだ。
「ちょ、苦しい苦しい!どうしたよ」
「んー……なんでもない。おはよう輝弥。いい朝だねー……」
「そりゃ、昨日も今日もいい朝でございますけどー」
笑って誤魔化したが、実際の理由は非常にシンプルである。怖い夢を見た、それだけだ。輝弥もいない、他の友人達もいない、真っ暗な闇に取り残される夢だった。正直二度と目が醒めなかったらどうしようと思ったのだ。ほっとして抱きつきたくなるのも無理からぬことではないか。
おはよう、の言葉は偉大だ。それが、愛する人の一言であるのなら尚更。
私を怖い夢から解き放ってくれるのは、いつもいつでも輝弥の存在なのだから。
「朝からサカってるって思われるからやめてくれよ。……優子、結構おねぼうさんだぞ。みんなもう準備してる。さっさと着替えろ」
「今日の予定は?」
「忘れたのか?沢で魚釣りするって昨日言ったじゃん。」
「あ、そうだった」
まだ頭はくらくらするし、眠気も残っている。それでも私は怠い身体に鞭打って起き上がったのだった。もう一度寝て、悪夢を再び見る方がごめんだった。
そもそも、せっかく輝弥と友人達と一緒にコテージに遊びに来たのである。昼まで眠って時間を潰してしまったら、勿体ないどころではない。
N県の奥地。
自然がいっぱいの、人気の避暑地。ずらずらと並ぶ木造コテージを私達五人で借りて、夏の旅行を満喫している最中なのだった。全員、同じ大学のゼミ生である。やれ就職活動やら、やれ卒業制作やらといろいろ予定はあるがそれはそれ、この休みの間だけは全部忘れて楽しもうということになっていた。企画したのは、いつでも元気で明るい私達のリーダー、望海である。
「ちょっとー?二人とも遅いんですけどー?」
顔を洗って慌てて着替えて、どうにか駐車場まで出ていった時にはもう、時刻は九時を過ぎてしまっていた。釣り道具をワゴンに積み込んでいた望海が、振り返ってぶーぶーと頬を膨らませる。
「誰かさんを迎えに寄越したの、もうちょっと前だった気がするんですけど?ベッドルームでイチャつくなよバカップルめ」
「い、イチャついてないってば!」
「ほんとうにー?ベッドで二人でごろごろしてたって隆祐が言ってたんですけどー?」
「うぐっ」
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