2話 ようこそ、空の世界へ

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 家に帰ると、ぼくは晩ご飯を一気にかき込んだ。  お母さんがぼくをジロリとにらむ。   「カケル、よくかんで食べなさい」 「お母さん、ぼくには時間が残されてないんだ」 「……映画の主人公じゃあるまいし。時間はたっぷりあるでしょ」  あの後、グラウンドで日が暮れるまで練習したけど、ツバサのコントロールはうまくできなかった。これができなければ、まっすぐ飛ぶことはおろか、上昇も下降もできない。  ぼくにできるのは、ソラに手を引かれて浮かび上がった後、その場にピタリと静止することだけだった。 『連休明けは、わたしが迎えにきてアゲル。家の前で待ってなさい』  とソラは得意気に言った。なんて上から目線なんだ。  連休はあと二日ある。それまでにツバサのコントロールをマスターし、ソラを驚かせてやろう。 「ごちそうさまっ」  晩ご飯を食べ終えると、ぼくはすぐに布団へ潜り込んだ。明日は朝から練習するぞ。 (……そういえば、今日は時間が経つのがとても早かったな)  この一日で起きた色んなことを思い出していると、いつの間にか夢の中に落ちていた。    次の日の朝、ぼくはランド・セイルを背負って庭に出た。  学校のグラウンドと比べたら全然狭いけど、ツバサのコントロールを練習するぐらいの広さはある。 「絶対飛べるようになってやる」  両手でほほを叩き、気合を入れて練習をはじめた。  けど、開始して十分も経たないうちに、ヒザをついてしまうのであった。 「うう、気持ち悪い……」  昨日と同じように、空中をグルグルと回転してばかり。ちっとも上達しない。  十年間も不器用な人間をやってきたんだ。一日も経たないうちにできるようになる、なんてマンガみたいな奇跡は起こらない。 (ソラに教えてもらった方がいいのかな?)  昨日の帰り際、ソラとは連絡先を交換していた。頼めば来てくれるかもしれない。  ――いや、だめだ。それなら飛べるようになっても、ソラを驚かせることができなくなってしまう。  それに、 『これも、わたしの指導のおかげね』  なんて言われかねない。    ……もっと頭を使ってみよう。  ”フライ”と唱えると、ツバサから地磁気と反発するエネルギーが光となって放たれる。だから、ツバサの向き――つまり腕を伸ばした方向と反対に進む。  ロケットと同じ原理。単純明快だ。  ただ、このエネルギーは人間を一人飛ばすほど大きなものだ。左右の腕の向きがちょっとずれるだけで、変な方向に飛んでいってしまう。こんな風に。  ――ガサガサガサッ!  ぼくは庭に生えた木々に突っ込んだ。葉っぱが口の中に入り、ペッと吐き出す。 (頭の中では、鳥みたいに飛んでるんだけどな)  結局、何の進歩もなく一日目が終了。二日目も朝から練習を続けたけど、状況は変わらず。あっという間に日が暮れてしまった。  今日で連休は終わる。このままでは明日、ソラと仲良く手をつないで登校することになる。改めて想像してみると……恥ずかしいぞ。  それに、もし新しいクラスメイトに見られたとしたら、 『おい、見てみろよ。あれが都会から来た転校生だって』 『うわあ、補助つきで飛んでるじゃねえか。カッコ悪い』  と初日からマイナスの印象になること間違いない。  かくなる上は――、 「お母さん、明日の朝は一時間早く起こして」 「別にいいけど……ソラちゃんって子が迎えに来てくれるんじゃなかったの? そんなに早く起きなくても間に合うわよ」 「ちょっと予定が変わったんだ」  晩ご飯を食べた後、ぼくはお母さんにお願いした。  次にスマホでソラにメッセージを送る。 『明日はやっぱり自転車で学校へ行くよ』 『オッケー』  ソラからの返信を受け、ぼくはニヤリと笑う。  これで準備は整った。あとはしっかり寝て、体力を一〇〇パーセントにするだけだ。
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