2話 ようこそ、空の世界へ

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 転校初日の朝、少し多めに朝ご飯を食べて家を出た。  見上げると、太陽は完全に昇っておらず、空の色は赤から青のグラデーションとなっている。  昨日、ぼくは考えた。 (ソラにつれられて登校するぐらいなら、自転車を使おうか)  いや、それはできない。先生はみんなランド・セイルを使って登校していると言ってた。一人だけ自転車で登校するなんて恥ずかしい。 (うまく飛べなかったとしても、ランド・セイルを使い、ぼく一人の力で学校まで辿り着きたい。そのためには――)  やれやれ。我ながら、なんてちっぽけなプライドなんだろう。恥ずかしさを我慢すればいいだけなのに、こんな面倒くさいことを思い付くなんて。 「いくぞ! ”フライ”」  ぼくは『T』字のポーズを取り、ランド・セイルにコマンドを唱える。ゆっくりとツバサの向きを変えると、腰ぐらいの高さまで浮かび上がった。けど、すぐにあらぬ方向へ飛んでいきそうになる。その瞬間、 「よし! ”ストップ”」  とランド・セイルに命令した。  振り返ると、ぼくの体はスタート地点から少し進んだ場所に着地している。その距離わずか一メートル。  そう、これがぼくの出した結論だ。  飛んだらすぐ着地。それをひたすら繰り返す。とても時間はかかるけど、ランド・セイルを使い、一人の力で登校したことには変わりない。 「――そのために早起きしたんだからなっ」  ぼくが亀のようにノロノロと進んでいるうちに、辺りはすっかり明るくなっていた。ぼくの上を飛び去っていく人の姿が目につくようになった。  通勤や通学の人たちだろう。けど、地上を行く人や道路を走る車はまったく見かけない。ランド・セイル以外の移動手段を使う人はいないようだ。 「これって、歩いて登校するだけでよかったんじゃないの……」  みんな空を飛んでいるから、地上を移動する人なんか気に留めていない。歩いて登校し「ランド・セイルで来ました!」と言えば、みんな信じるだろう。  ……何ズルいことを考えてるんだ。しっかりしろ、ぼく! ランド・セイルだけで登校すると決めたんじゃないのか。 (そういえば――少しずつ飛ぶ距離が長くなってきた気がする)  最初は一度に一メートルしか進めなかったのに、今はその倍以上になっている。疲れがたまってきたはずなのになんでだろう。 (疲れることで、よくなった部分がある……?)  うーん、とぼくは首をひねった。  疲れると体を動かすのが大変になる。つまり、無駄な動きが減ったということか。   「……もしかして、”フライ”!」  空中でバランスを取る時、平均台の上を歩くように腕をフラフラと動かしていた。  その結果、ツバサの向きが小刻みに変わってしまい、おかしな方向へ飛ぶことにつながっていたのかもしれない。 「――腕は斜め後ろに伸ばして固定、バランスは体全体で維持するイメージ」  すると、ぼくの体は安定しながら上昇していく。道沿いに建つ家の二階に……いや、屋根の高さも超えた。  ソラの補助なしでこの高さに到達したのははじめてだ。
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