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転校初日の朝、少し多めに朝ご飯を食べて家を出た。
見上げると、太陽は完全に昇っておらず、空の色は赤から青のグラデーションとなっている。
昨日、ぼくは考えた。
(ソラにつれられて登校するぐらいなら、自転車を使おうか)
いや、それはできない。先生はみんなランド・セイルを使って登校していると言ってた。一人だけ自転車で登校するなんて恥ずかしい。
(うまく飛べなかったとしても、ランド・セイルを使い、ぼく一人の力で学校まで辿り着きたい。そのためには――)
やれやれ。我ながら、なんてちっぽけなプライドなんだろう。恥ずかしさを我慢すればいいだけなのに、こんな面倒くさいことを思い付くなんて。
「いくぞ! ”フライ”」
ぼくは『T』字のポーズを取り、ランド・セイルにコマンドを唱える。ゆっくりとツバサの向きを変えると、腰ぐらいの高さまで浮かび上がった。けど、すぐにあらぬ方向へ飛んでいきそうになる。その瞬間、
「よし! ”ストップ”」
とランド・セイルに命令した。
振り返ると、ぼくの体はスタート地点から少し進んだ場所に着地している。その距離わずか一メートル。
そう、これがぼくの出した結論だ。
飛んだらすぐ着地。それをひたすら繰り返す。とても時間はかかるけど、ランド・セイルを使い、一人の力で登校したことには変わりない。
「――そのために早起きしたんだからなっ」
ぼくが亀のようにノロノロと進んでいるうちに、辺りはすっかり明るくなっていた。ぼくの上を飛び去っていく人の姿が目につくようになった。
通勤や通学の人たちだろう。けど、地上を行く人や道路を走る車はまったく見かけない。ランド・セイル以外の移動手段を使う人はいないようだ。
「これって、歩いて登校するだけでよかったんじゃないの……」
みんな空を飛んでいるから、地上を移動する人なんか気に留めていない。歩いて登校し「ランド・セイルで来ました!」と言えば、みんな信じるだろう。
……何ズルいことを考えてるんだ。しっかりしろ、ぼく! ランド・セイルだけで登校すると決めたんじゃないのか。
(そういえば――少しずつ飛ぶ距離が長くなってきた気がする)
最初は一度に一メートルしか進めなかったのに、今はその倍以上になっている。疲れがたまってきたはずなのになんでだろう。
(疲れることで、よくなった部分がある……?)
うーん、とぼくは首をひねった。
疲れると体を動かすのが大変になる。つまり、無駄な動きが減ったということか。
「……もしかして、”フライ”!」
空中でバランスを取る時、平均台の上を歩くように腕をフラフラと動かしていた。
その結果、ツバサの向きが小刻みに変わってしまい、おかしな方向へ飛ぶことにつながっていたのかもしれない。
「――腕は斜め後ろに伸ばして固定、バランスは体全体で維持するイメージ」
すると、ぼくの体は安定しながら上昇していく。道沿いに建つ家の二階に……いや、屋根の高さも超えた。
ソラの補助なしでこの高さに到達したのははじめてだ。
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