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「おい、転校生。もう空を飛べるようになったんだってな」
放課後、ソラと一緒にランド・セイルの練習に向かおうとしたら、リクに呼び止められた。
ほら見ろ。予想通りトラブルがやって来たぞ。
「ああ、もうそれなりのスピードで飛べるようになったよ」
と大人っぽい余裕たっぷりの言葉を、リクを見下ろ――じゃなくて見上げながら言った。リクはぼくより頭一つ大きい。
「それなりのスピードねえ。オレにもその実力を見せてほしいもんだ」
「ああ、機会があればぜひ」
リクが腕を組み、ニヤリと笑う。
「それじゃあ機会をつくろう。オレと勝負しないか?」
「勝負……?」
「ランド・セイルのレースだ。どちらが速いか決める」
へえ、おもしろそうじゃないか。普通のかけっこなら、運動音痴のぼくに勝ち目はないだろう。けど、ランド・セイルなら運動神経は関係ない。
これまで、運動会でお荷物扱いされた日々を思い出し、このクラスで一番クールなぼくの体に熱いものが流れた。
「その勝負、受けて立とう」
「よし、来た。それじゃあ――」
「ちょっと待ったあ!」
ぼくとリクの間に、ソラが滑り込んできた。
「リク、いくら何でもカケルが不利よ。まだランド・セイルを使いはじめて一週間。普通の子は、浮かんでいるだけで精一杯の時期なんだから」
「でも転校生はもう飛べるんだろ? ランド・セイルの天才かもしれないじゃないか」
え、褒められてる! ちょっとうれしい。
「ソラ。ぼくなら大丈夫だよ。安心して」
ソラがジトっとした目でぼくを見た。それ、全然信用してない顔ですよね。
「カケル。そもそも、どういうコースを飛ぶかさえ知らないでしょ?」
「え、グラウンド一周とかじゃないの?」
ハハハ、とリクがお腹を抑えて笑った。
「転校生。オレたちは空を飛べるんだ。ちまちまグラウンドを一周するわけがないだろう。この街の空を巡るコースだ」
「街の空を巡るコース……」
「どうした。怖気づいたのか?」
「……逆だよ」
「へ?」
「なんておもしろそうなんだ!」
いつも決まったルートや場所ばかり飛んでいたけど、空は無限に広がってるんだ。是非とも挑戦させてもらいたい。
「……なあ、ソラ。転校生ってこんなキャラなのか? 他のヤツらと話してるのを見てたが、もっとスカした性格だと思ってたんだが」
「あー、ただのランド・セイル馬鹿と思ってくれていいよ」
「おい、そこの二人。聞こえてるぞ」
その後、ソラはぼくの熱意に負け、勝負を渋々了承した。
そもそも、なんでぼくの勝負にソラの了承がいるんだよ。ソラに文句を言うと、「あなたの師匠なんだから当然でしょ」と怒られてしまった。
……その設定、いつまで続けるの?
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