3話 街上空、はじめてのレース

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「――で、ここからスタートだ。分かったか?」 「ああ、ばっちりだよ」  ぼくたちは学校を出ると、レースの舞台となるコースを飛んで回った。  ゴールは学校の校門。そこからスタート地点の公民館へ向かって、街のあちこちを巡った。はじめての場所だらけで、もちろん『ばっちり』なわけがない。 「こら、カケル。いい加減なこと言わないの」  ソラがぼくの頭をポンと軽く叩いた。さすがぼくの師匠。弟子のことはよくご存知で。  その様子を見ていたリクがくつくつと笑う。 「ソラ。転校生の『ナビゲーター』をやってやれよ。オレは一人で構わない」 「ナビゲーターって何?」 「ああ、カケルにはまだ教えてなかったか。ランド・セイルのレースでは、ルートを案内したり順位を教えたりする、サポート役をつけることが多いの。それがナビゲーターよ」 「それはありがたい役だけど、どう連絡を取り合うの? 飛行中にスマホを使うのは危ないし」 「スマホなんか使わないよ。こうやって――」  とソラがぼくにピタリとくっついてきた。  一瞬、ドキッとしたけど、ぼくはすぐに落ち着きを取り戻す。これもナビゲーターに必要なことに違いない。今回はひっかからないぞ。  ソラは”コネクト”と言った後、ぼくから離れた。ランド・セイルのコマンドだろうか? 「……カケル、聞こえる?」 「わっ! びっくりした」  突然、ソラの声が間近で聞こえ、ぼくは驚いた。声は背中のランド・セイルから発せられたようだ。 「ランド・セイルにはマイクとスピーカーが搭載されてるからね。離れていても会話できるんだよ」 「へえ、こんな便利なコマンドがあるんだ」  ランド・セイルには他にもまだまだ知らないことがありそうだな。今度飛び方以外のこともソラに聞いてみよう。  ぼくはスマホで地図を表示し、改めてソラにコースを教えてもらう。 「スタート地点は今わたしたちが立ってる場所。街の公民館よ。そこから四つのランドマークを通過し、わたしたちの通う小学校の校門がゴール。おおよそ五キロメートルのコースね」  ソラがスタート、ランドマーク、ゴールの場所を指でなぞる。英語の『G』を描くようなルートだ。 「こういう広い場所でのレースの場合、明確なコースは決まってないわ。ランドマークさえ順番に通過すれば、どう飛んでも構わない。けど、速く飛びたければ自ずとコースは決まってくる」 「最短距離――つまりランドマークまで一直線に飛ぶわけか」 「そういうこと。ランドマークに向かって一直線に飛び、通過したら方向転換。また次の目標に向かって、一直線に飛ぶのがセオリーね」  ぼくはツバサのコントロールがうまくないから、細かな方向転換は苦手だ。一直線に飛ぶことが多い今回のコースはぼくに合っている。ふふふ……勝てる、勝てるぞ。 「ソラ、ナビゲーターしっかり頼むよ」 「誰に言ってるの。任せておきなさい」  ソラが自信満々に言った。  リクに視線を移すと、不適な笑みを浮かべて待ち構えていた。 「転校生、そろそろはじめるぞ。準備はいいか?」 「ああ、問題ない」  公民館の前を走る道路がスタート位置だ。ぼくとリクが横に並ぶと、ソラが手を上げた。 「スタートの合図はわたしに任せて」  ぼくとリクは静かにうなずいた。  ソラが大きく息を吸い込み、レースの開始を告げる。 「それじゃあ、位置について……よーい、スタート!」  一瞬早く、リクが”フライ”と唱えて空へ飛び出す。   (くそ! 出遅れてしまった)  すぐにぼくも空へ向かって駆け出す。リクの背中はまだ手の届く距離だ。
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