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最短コースから大きく外れたぼくが、次のランドマークに向けて飛ぶのを再開した時、リクの後姿は点になっていた。
その後は、
「ここが二つ目のランドマーク、酉紀幼稚園よ。めずらしい木造の校舎で、屋根の上に鐘がついてるの」
「ログハウスみたいだ。こういう幼稚園に通ってみたかったな」
「次は山の中にあるダム。近くにキャンプ場があってね。ワカサギ釣りを体験できるんだよ」
「キャンプと釣りが一緒にできるんだ! 楽しそうじゃん」
「最後が酉紀城。天守閣はつぶれて石垣だけになってるけど、毎年大きなお祭りが開かれるんだよ」
「へえ。都会では近くでお祭りなんてなかったし、行ってみたいな。案内してよ」
とレースというより、酉紀町観光ツアーになってしまった。
ようやく、ゴールである学校の校門に到着。ナビゲーターを務めたソラの姿が見える。その横には、あざけるような笑みを浮かべたリクが立っていた。
「よお、転校生。ずいぶん遅かったじゃないか」
「いやあ、待たせてしまったようで悪かったね。ちょっと道が混んでて」
ぼくは余裕のあるフリをして答えた。
心の奥底から、メラメラと悔しい気持ちが燃え上がってくる。今まで勉強やスポーツで負けても「仕方がない」の一言ですませてきたけど、ランド・セイルでは誰にも負けたくない。
「まあ、ぼくはランド・セイルのカスタマイズなんて知らなかったからね。こんな直線ばかりのコースで、スプリントタイプとやり合うのは、最初から不利だったよ」
ぼくは精一杯の皮肉をぶつけた。
(そう、カスタマイズすれば、ぼくにも勝機はあったはずだ)
なぜかソラが首を大きく横に振る。
「待って、カケル。それは違うわ」
「どういうこと?」
「リクのランド・セイルはスプリントタイプじゃない。スラロームタイプよ」
「……え?」
リクがクスリと笑った。
その笑い声はだんだんと大きくなり、辺りに響き渡るほどになった。
「ソラの言う通りだ。そう、オレのランド・セイルはスラロームタイプ。普通なら、ノーマルタイプのお前の方が速いスピードで飛べるはずなんだよ」
「……そんな、まさか」
ぼくは慌ててソラを見た。冗談を言っているようには見えない。
「それだけオレと実力差があるってことさ。まあ、都会から来たお坊ちゃんにしてはよくやった。けどな、どれだけ練習してもこの差は埋まらないと思うぜ」
ぼくはお坊ちゃんじゃない、と言い返してやろうと思ったが、何の反撃にもならない。
結果は完敗。紛れもない事実だ。けど――、
「……本当にそうか?」
「何が言いたい」
「途中で差は広がったとはいえ、最初の方はある程度勝負になっていた。ぼくはランド・セイルを使いはじめてたった一週間の素人なのにね。キミは、そのうちぼくに勝てなくなると恐れてるんじゃないのか?」
「ハッ、何を言い出すかと思えば。くだらない」
「ふうん。今後も絶対に勝てる自信があるなら、再戦を受けてくれるかい?」
「……」
ぼくはリクを煽った。ふふふ、口八丁なら負けないぞ。
リクはぼくを鋭い眼差しでにらみつける。
「……いいだろう。もう一度勝負してやる。だが、またオレが勝ったら潔く負けを認めろ」
「もちろん」
(よし、食いついた!)
ぼくは心の中でほくそ笑んだ。再戦する約束さえ取り付けたら、こっちのものだ。たっぷり時間をかけて練習し、絶対に勝てる自信がついてから戦えばいい。
しばらく静観していたソラが口を開く。
「――決まりね。それじゃあ、再戦は一週間後。同じコースで受けて立つわ」
「ああ、構わないぜ」
リクが胸の前で両手の拳をゴツンと合わせた。
(……え。この子、何勝手に一週間なんて短い期間を言ってるんだ)
ぼくは抗議の眼差しをソラへ向ける。ソラはそれに対し、親指を立てて答えた。
ダメだ。ぼくの気持ちがまったく届いていない。
リクが「せいぜい練習に励むんだな」と捨て台詞を残して去った後、ぼくとソラは二人きりになった。
ソラは能天気に笑う。
「自信をなくすのが心配で勝負させたくなかったんだけど、負けてすぐ再戦を申し込むなんてね。カケルも結構熱い男じゃない。わたしも指導に熱が入りそうだ」
「……ちょっとソラ。再戦が一週間後なんて短すぎだろ!」
「カケルはたった二日でランド・セイルを使えるようになったのよ? 一週間もあってリクに勝てないようじゃどうする!」
「……たしかに」
微妙にほめるから、文句言えなくなったじゃないか。
「分かった。勝負は一週間後でいい。レースのこと、カスタマイズのこと、徹底的に教えてもらうからな」
「もちろんよ。わたしに任せておきなさい」
ソラは腕を組み、自信満々の様子で答えた。
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