4話 超加速のコマンド

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4話 超加速のコマンド

 リクに負けた次の日。  帰りの会が終わると、ぼくは机の中から教科書を取り出し、ランドセルの中にしまっていく。今日は使う教科書が多かったから、背負うとズシリと重く感じた。  隣の席を見ると、いつの間にかソラがいなくなっていた。 (あれ? さっきまでいたのに)  教室を見渡すと、教卓の前で手招きするソラの姿があった。イケちゃん先生と何か話している。  ぼくは小走りで二人に近づいた。 「イケちゃんに、カケルのランド・セイルのカスタマイズをお願いしてたの」  ソラがカスタマイズしてくれるんじゃないのか。あれだけ自信満々だったのに。 「カケルくん。登下校に使うだけなら、カスタマイズなんか必要ないと思うけど……何かあったの?」 「実は、昨日リクとレースをして――」  ぼくはイケちゃん先生に、レースに負け、一週間後に再戦することを伝えた。先生はウンウンとうなずきながら、楽しそうに話を聞いていた。 「――なるほど。カスタマイズして、リクくんとの実力差を埋めたいってことね」 「はい。ぼくにはカスタマイズの知識はないですし、ソラもできないようなので」  チラリと隣を見ると、ソラはばつが悪そうな顔で口笛を吹いた。 「そういうことなら、協力するわよ。小学生にはちょっと難しいからね」 「先生、ありがとうございます」 「イケちゃん太っ腹!」  これでリクとの勝負に希望が見えてきたぞ。  それにしても、小学生にはカスタマイズが難しいということは――。 「リクのランド・セイルは誰がカスタマイズしたんだろ?」 「ああ、わたしよ。この前頼まれたの」  ……あなたがぼくの敵を強くした犯人ですか。 「それで、カケルくんはどのタイプに変えたいのかな?」  ぼくは静かに教室内を振り返り、リクが教室にいないことを確認した。手の内はなるべくさらしたくない。 「――スプリントタイプにしたいと思います」  はじめてカスタマイズのことを聞いた時から決めていた。  自慢じゃないが、ぼくは足がすごく遅い。あまりの遅さに『居眠りする亀』と言われたこともあった。だから、ランド・セイルぐらいは早く飛びたいのである。 「わたしも賛成。スラロームタイプに変えて小回りが利くようになっても、ツバサのコントロールが苦手なカケルには使いこなせないと思う。スプリントタイプはスピードが速い分、バランスを取るのが難しい。けどカケルになら使いこなせるはずよ」 「……どうやら決まったみたいね」  ぼくとソラは、イケちゃん先生に向かってコクリとうなずいた。 「それじゃあ、ランド・セイルをここにおいて。ウフフフ、楽しみだわ」  先生の目が怪しく光った。どうやら、機械オタクの血が目覚めたようだ。  しばらく教室の中で待っていると、先生が「終わったよ」と声を上げた。  ぼくは先生からランド・セイルを受け取る。カスタマイズの前後で特に変わった様子はない。 「カスタマイズと言っても、ツバサに何かを取り付けたりするわけじゃないのよ。変えたのは外側でなく中身。システムの部分だからね」  スマホのアップデートみたいなものか。  ノーマルタイプとの違いは、実践で確かめるとしよう。 「ソラさん、タイプごとに使える『専用コマンド』の説明はあなたからお願いね」 「はい! 任せてください」  ぼくとソラは先生にお礼を言い、教室を後にする。  専用コマンド? 何のことだろう?
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