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1話 未確認飛行少女、現る
今日、将来の夢を語り合う授業があった。
「ぼくの夢は、スポーツ選手になることです」
「わたしはケーキ屋さん!」
「おれはゲームソフトを作ってみたい」
クラスメイトたちが順番に夢を語っていく。みんなの顔はキラキラと輝いていた。
先生と目がピタリと合う。いよいよぼくの番が回ってきた。
「それじゃあ次はカケルくん! どんな夢を持ってるのかな?」
「そうですね……」
ぼくは少し言葉をためる。
「そこそこの給料をもらえるサラリーマンになれたらうれしいです。あ、でも『カンリショク』にはなりたくないですね。すごくストレスが溜まるらしいので」
「……あら、しっかりした考えを持っていてすごいわね」
先生は顔を引きつらせて笑った。
ごめん、先生。ぼくもみんなのような夢を語りたいとは思ってるんだ。
けどぼくにはこれといった特技もなく、スポーツも苦手。おまけに不器用ときてる。
夢中になるほど好きなものは見つからず、とりあえず勉強に精を出している。だから現実的な夢を語るしかなかった。
友達はよく「カケルくんって大人びてるよね」と言う。
それは大きな勘違いだ。
ぼくはただ冷めているだけなんだもの。
そういえば、数年前にも夢を語る授業があった。
昔はもうちょっとマシなことを言った気がする。
ぼくは一体何を語ったのだろう? ……うまく思い出せない。
モヤモヤしながら家に帰ると、お母さんが難しい顔をして待っていた。
何か大変なことが起きたのだろうか? ぼくはゴクリとつばを飲みこんだ。
「さっきお父さんから電話があってね。転勤が決まったそうよ。急で申し訳ないけど、引越ししなければならないの。学校も転校することになるわね」
(……なーんだ、そんなことか)
ぼくは頭の後ろで手を組んだ。
「ふうん、引越し先はどういう街?」
「――ってカケル。あなたずいぶん落ち着いてるのね」
「ぼくがわがまま言って変わるものではないでしょ」
「そうだけどさ。母としては子どもらしい戸惑いを見せてほしいものよ」
「ぼくはもう小学五年生だ。そんな子どもじゃない」
どうせ学校なんてどこも同じ。
冷めたぼくを熱くしてくれるものが、転校先で見つかるわけでもない。今までのように退屈な毎日を過ごしていくだけさ。
「それで、さっきの質問の答えは?」
「ああ、引越し先ね。こことは正反対の場所よ」
ぼくが住んでいる街は、この地方では一番の都会といっていい。
リニア新幹線が停まる駅もあるし、大きなショッピングモールだってある。
とすると――。
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