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いつものように、ぼくとソラは学校のグラウンドに向かった。人が少なく場所も広い、色々試すにはうってつけだ。
「先生が言ってた『専用コマンド』って何?」
「カスタマイズしたら使えるようになる特別なコマンドのことよ。必殺技みたいなものかな」
「へえ……」
ぼくは何気ない風を装って答えた。必殺技――心がくすぐられる響きじゃないか。
「スラロームタイプの専用コマンドは『ターン』。左右のツバサのうちの一つから一気にエネルギーを放ち、高速に方向転換できるの」
「……そうか。リクがあんなに早く方向転換できたのは、ターンを使ったからか」
「そうだと思う」
リクがセンダンの木のそばをすごいスピードで方向転換した時、片方のツバサの光が急に大きくなっていた。あれがターンを使った瞬間だ。
「スプリントタイプの専用コマンドは?」
「左右のツバサから数秒間一気にエネルギーを放ち、超加速するコマンド。『ブースト』よ」
これまでより、さらに速いスピードで飛べるのか。これはすごい武器になりそうだ。
「……早速試してみても?」
「そう言うと思った」
ぼくは校舎の屋根が見下ろせる高さまで上昇した。
まずは今出せる最高のスピードまで加速していく。体は前に倒し、足先までしっかり伸ばす。
「へえ、昨日の勝負の時より、安定してるじゃない」
「お褒めにあずかり光栄だよ。……けど、この速度で姿勢を安定させるのは、やっぱりすごい集中力が必要だな」
ランド・セイルのスピーカーから聞こえるソラの声。
地上にいるソラとはコネクトコマンドでつながっている。
「カケルは経験が圧倒的に足りないからね。それを埋めるためのカスタマイズでしょ?」
「ああ、その通りさ」
さて、ここからが本番だ。ぼくは全神経をバランスを取ることに集中し、コマンドを唱える。
「いくぞ、”ブースト”!」
瞬間、強烈な向かい風を受け、思わず目を細めた。歯を食いしばりながら地上を見ると、木々はまったく揺れていない。風が吹いていないってことは――、
(それだけ、ぼくが加速してるってことだよな!)
ぼくの体は一瞬でグラウンドを横切り、学校の外へ飛び出てしまった。ブーストの効果が切れると、ぼくは慌てて体を起こす。腕を前方に伸ばして急ブレーキをかけた。
振り返ると、ぼくの飛んだ軌跡がまぶしいぐらいに輝いていた。とんでもないエネルギーを放ったってことか。
「あのスピードでもバランスを崩さないとはね。なかなかやるじゃない」
「どちらかというと、バランスを崩す暇さえない感じだよ」
ブースト中に方向転換するほどの余裕はなさそうだ。コマンドを唱えたら一直線に飛ぶしかない。使うタイミングには注意しよう。
「よし、もう一度いくぞ、”ブース――”」
コマンドを唱えようとした瞬間、ランド・セイルから機械の音声が流れる。
「バッテリーのザンリョウがテイカしています。ジュウデンしてください」
「え! もうバッテリー切れ?」
ランド・セイルはスマホのようにバッテリーで動いているので、定期的に充電が必要だ。
いつもならもう少し持つはずなのに。どうしてだろう。
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