4話 超加速のコマンド

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 ぼくはゆっくりとソラの近くに着地した。   (家に帰るぐらいのバッテリーは残ってそうだな)  日も暮れてきたし、今日の練習はこれで終わりにするか。ソラが眉間にしわを寄せ、ため息をつく。 「――やっぱりバッテリーが切れちゃったか」 「どういうこと?」 「ブーストは、かなりバッテリーを消費するんだよね。連発できないのが難点なの」  あれだけの加速だ。一気にバッテリーを消費するのは納得できる。 「けどターンだって同じだろ? リクも連発できないのなら、五分五分だ」 「それが違うのよ。ターンがどういうものだったか思い出して」 「たしか、二つのツバサのうちの一つから一気にエネルギーを……っとそういうことか」 「気づいたようね。ターンは一方のツバサからしかエネルギーを放たないけど、ブーストは両方のツバサからエネルギーを放つ。単純計算で、バッテリーを二倍消費するってわけ」  まさかブーストにそんな欠点があったなんて。  ソラが顎に手を当て、話を続ける。 「わたしの推測だと、一〇〇パーセントまで充電してあのコースを飛ぶ場合、リクならターンを四回使用できるはず。ランドマーク――つまり方向転換するポイントも四つ。リクは通過の度にターンを使えるわけね」 「もしかして、そこまで計算し、あのコースで勝負しようとしたんじゃ……」 「いやあ、リクはそこまで頭がよくないよ。きっと偶然ね」  ごく自然に馬鹿にされるリク。ちょっとかわいそうに思えた。  ターンを使えるのが四回ってことは、ブーストだとその半分の二回。どのタイミングで使うかは、慎重に見極める必要がある。  ぼくが悩んでいると、ソラが不敵な笑みを浮かべる。 「チッチッチッ。さっきわたしが『リクなら四回使用できる』って言ったでしょ?」  ソラは何が言いたいんだろう。ぼくは頭の中でソラの言葉を繰り返した。  ……そうか。『リクなら』ということは『ぼくなら』違うって意味か。 「――専用コマンドを使える回数は、人によって変わるんだね」 「その通り! 体重が重い人ほど、バッテリーの消費が激しい。飛ぶために大きなエネルギーが必要だからね」 「じゃあリクより小さいぼくなら、ブーストをもっと多く使えるんだ」 「うん。リクよりもわたしよりも小さい、カケルならね」  ウフフ、とソラが笑った。  ……いつか絶対に見下ろしてやる。 「カケルならブーストを三回は使えると思う。明日一〇〇パーセントまで充電して、コースを回ってみようよ」 「りょーかい」  大抵のスポーツは体が大きい方が有利。ランド・セイルなら体が小さい方が有利になるなんて、うれしい誤算だ。
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