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次の日の放課後、ぼくはソラと一緒に、コースを飛んで回った。
ソラの予想通り、ブーストは三回が限界だった。これ以上ブーストを使うと、ゴールに辿り着くまでにバッテリーが切れ、レースを棄権することになるだろう。
ゴールの校門まで戻ってきたぼくたちは、作戦を練ることにした。
「この三回をどのタイミングで使うかが、勝敗のカギね」
「うん。改めてコースを確認してみよう」
ぼくはスマホを取り出し、街の地図を表示した。
最初は街の外周を回り、ランドマークを通過するごとに街の中心へと近づいていく。英語の『G』を描くようなルート。
「ねえ、ソラ。序盤の方がランドマークの間の距離が長いし、ブーストの加速を活かせるかな?」
「うん。直線はスピード勝負になるし、ブーストを使うタイミングとしてはいいと思う」
ただブーストを使い切った後半が問題だ。スプリントタイプにカスタマイズしたとはいえ、この前のようにスピードで負けては意味がない。
「そもそもさ。スラロームタイプのリクより、ノーマルタイプのぼくが直線で遅かったのは何で? リクは実力差って言ってたけど」
「そうだね……やっぱり飛ぶ時の安定感かな」
「安定感?」
「うん。カケルって、ツバサのコントロールが苦手でしょ? めちゃくちゃ不器用だし」
「……悪かったね」
「普通の人ならまともに飛べないぐらいコントロールが下手でも、バランス感覚がすごいから、飛べちゃうんだよね」
一瞬、褒められてるように思ったけど、よくよく考えるとけなされてるぞ。
「直線でスピードを出すには、ツバサを正確に背後に向け、エネルギーを一定の方向へ放ち続けないとダメ。それも様々な方向から強い風が吹く上空でね。これはスキルだけじゃなく、たくさん空を飛んだという経験値が必要になってくる」
「経験だけは、そう短時間でつめるものじゃないな……」
ん? ちょっと待てよ。
「じゃあなんで再戦は一週間後とか言ったの?」
「……実は勢いで言っちゃった」
ソラがペロッと舌を出した。
もっともらしい理由を言ってのに、勢いだったのか!
勝負までに経験を積むことも、ブーストの力だけで勝つのも難しい。
一体どうしたらいいんだ……。
ぼくが眉間にしわを寄せ悩んでいると、ソラがニヤリと笑う。
「そんな不器用なカケルに、もう一つの武器を授けよう」
「え! 隠しコマンドとか?」
「……そんなものないから。まだバッテリーは少し残ってるよね? 帰りながら教えてあげる」
「りょーかい」
ぼくとソラは学校を後にし、隣に並んで通学路の空を飛んでいく。
「ねえ、カケル。わたしの後ろにピッタリくっつくように飛んでみて」
ぼくは少しスピードを落とし、ソラの後ろに回った。ソラのランド・セイルから放たれる光がはっきり見える。光で作られた道を飛んでるみたいだ。
「もうちょっと近づいて」
「……これぐらいかな」
さらにソラとの距離をつめた時、ふいに体が軽くなる。前方から受ける風の力が弱まり、バランスが取りやすくなった。
「――早速気づいたようね」
「一人でぽつんと飛ぶ時より、すごく飛びやすい」
「これだけ近づいて飛ぶと、前の人が盾となって空気抵抗が抑えられる。そのおかげでバランスが取りやすくなるの。これなら経験が浅くても、速いスピードで飛べるはずよ」
「本当だ! どんどんソラに近づいていく」
ぼくは加速しながらソラの背後を飛び出す。再び体が受ける風は強くなるが、加速していた分、ソラを追い抜くことができた。
「これが『スリップストリーム』。相手を追い抜く時のテクニックよ」
スリップストリーム――これは大きな武器になりそうだ。
「よーし、さらにここでブーストをかければ!」
「カケルの馬鹿! 今はダメ――」
ぼくが”ブースト”を唱えた瞬間、ランド・セイルから機械の音声が流れた。
「バッテリーのザンリョウがゼロになりました。アンゼンソウチをサドウします」
「あ……バッテリーが切れかけてるの忘れてた!」
「だから、ダメって言ったのに」
ぼくはゆっくりと降下していく。ソラはぼくを上空から見下ろし、ため息をついた。
「それじゃあ、わたしはこのまま飛んで帰りますので。あとはよろしくー」
「ちょっとソラ! 置いてかないでくれよ」
笑い声が残った空の下、ぼくは全速力でソラを追いかけた。
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