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「勝負の日まで、ツバサのコントロールを徹底的に鍛えるよ!」
残り時間、ぼくはツバサのコントロールスキルを高めることに集中した。コントロールがうまくなればなるほど、飛ぶスピードは速くなる。方向転換する時もなるべく減速しなくてすむはずだ。
勝負の前日、ぼくと空は最後の練習を終えた。
「カケル、今日はこれで終わろう」
「りょーかい。いよいよ明日だね」
「できる限りのことはやった。一週間前とは見違えるほど速くなったと思う」
「師匠のひいき目じゃなくて?」
「うん。本当」
少し疲れたので、ぼくとソラはブランコに座って休憩した。
体を前後にゆらすと、ブランコが動き出す。ランド・セイルで飛ぶ時と、少し違う心地よい風を体に受けた。
「ブーストにスリップストリーム。この二つの武器で、あれだけあった差をどこまで埋められたのかな」
「わたしの見立てでは、勝率は三割って所ね」
「おいソラ。さっき速くなったって言ってたじゃん」
「それと勝敗は別。経験の差は歴然としてるんだし、三割もあれば上等よ」
それはそうなんだけどさ、とぼくは答えた。
勝負するからには勝ちたい。せめて五分五分になるような策があれば。
「さて、そろそろ帰ろっか」
「――そうだね」
最後にブランコを大きく一こぎ。ブランコが後ろに下がった時、ぼくは足を曲げる。瞬間、正面から強い風が吹いてきた。
これは力一杯こがないと! 思い切り足を伸ばすと、ぼくのブランコは高く前に上がった。
ふと頭の中で何かがひっかかった。
――激しい向かい風に対抗するため、ぼくは力一杯ブランコをこいだ。
これって、ランド・セイルも同じなんじゃないのか?
――空気抵抗が大きいと、多くのエネルギーを放つ必要がある。つまり、バッテリーを多く消費する。
ぼくはブランコから勢いよく立ち上がる。これなら、五分五分の勝負ができるかもしれない。
「ちょっと、カケル。どうしたの?」
「……ふふ」
「へ?」
「ふふふふふふふふふふふふ」
「え、ちょっと気持ち悪いんですけど」
ぼくはソラに向かってニヤリと笑う。気持ち悪かろうが構わない。
「ソラ、話したいことがある」
「え! 急に何?」
ぼくは思い付いたばかりの策を話す。
最初、ソラはなぜかワクワクするような目でぼくを見ていたが、すぐに怒りの表情に変わり、最後は真剣な眼差しになった。何だかよく分からない反応だ。
「……うん、わたしもいけると思う」
「よし! 勝てる見込みが出てきたぞ」
ソラがクスリと笑い、ぼくに手のひらを向ける。
次の瞬間、パチンと心地よい音が辺りに響き渡った。
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