5話 決戦、勝利のカギは節約術

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「カケル、そろそろ二つ目のランドマークよ。スピードに注意して」 「くそー、もうちょっと距離があればリクを抜けたのに!」  のどかな田園地帯が続く中、大きなログハウスのような建物が見えてきた。二つ目のランドマーク、酉紀(とりき)幼稚園だ。  先行するリクは、再びターンを使用して幼稚園の上を通過する。そこで生じた風が、屋根の上にある鐘を揺らし、カランカランと音色を響かせた。接触するかしないかギリギリのライン。リクのツバサをコントロールするスキルは並じゃない。 「――けど、ぼくだってこの一週間遊んでたわけじゃないぞ」  さっきよりスピードを緩めず、ぼくはランドマークへ接近する。ツバサの向きを慎重にコントロールし、何とかバランスを崩さずに通過した。差はそこまで開いていない。 「今だ、”ブースト”!」  これが三回目のブースト。この距離なら――抜ける。 「転校生、なかなかやるじゃないか。だが、これで打ち止めだ!」  リクがぼくの進路をふさぐように位置を変えた。  くそ、これじゃあ抜けない! 進路を変えようしたものの、ブースト中にうまくツバサをコントロールができず、バランスを崩してしまった。立て直そうとした瞬間、ブーストの効果が切れる。  依然として、ぼくの目の前にリクの背中があった。 「くくく、ここで抜くつもりだったのか。残念だったな。あとはターンでジワジワ差を広げさせてもらうぜ」 「……」 「どうした転校生。悔しくて声も出せないのか」  リクがニヤニヤと笑った。  三つ目のランドマークに近づくにつれ、景色は田園地帯から山岳地帯に変わる。山から吹く風の影響で気流が乱れ、より繊細なツバサのコントロールが必要となる場所だ。  ぼくは、リクのスリップストリームについたまま飛び続ける。この気流、リクの作った空気の盾から飛び出すと、バランスを崩すかもしれない。山岳地帯を抜けるまで、現状維持だ。  山の斜面に沿って高度を上げていくと、開けた場所に出る。三つ目のランドマークである大きなダムが見えてきた。  先を行くリクがターンを使いながらダムに接近する。リクはアーチ状に凹んだダムの壁面に両足をつけると、壁を勢いよくキックした。これまでよりさらに素早い方向転換だ。  ぼくはダムの壁面にぶつからないようにスピードを殺し、リクの後を追う。再び差が開いてしまった。 「転校生、勝負あったな」 「いや――これからよ」 「ああ、ソラの言う通りだ!」  最後のランドマークに向かい、ぼくたちは山岳地帯を下る。風は背後から強く吹いているようで、飛行により生じる向かい風と打ち消し合っていた。 (――つまり、ぼくにとっては無風の状態だ)  風の影響のない今なら、ツバサの繊細なコントロールは必要なく、まっすぐ飛ぶことだけに意識を集中できる。  ぼくは大きく息を吸い込み、一つのコマンドを唱えた。  瞬間、ぼくを激しい衝撃が遅い、体が前へ前へと押し出されていく。  ぼくが唱えたもの。それは、スプリントタイプだけが使える超加速のコマンド――ブーストだ。
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