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「カケル、そろそろ二つ目のランドマークよ。スピードに注意して」
「くそー、もうちょっと距離があればリクを抜けたのに!」
のどかな田園地帯が続く中、大きなログハウスのような建物が見えてきた。二つ目のランドマーク、酉紀幼稚園だ。
先行するリクは、再びターンを使用して幼稚園の上を通過する。そこで生じた風が、屋根の上にある鐘を揺らし、カランカランと音色を響かせた。接触するかしないかギリギリのライン。リクのツバサをコントロールするスキルは並じゃない。
「――けど、ぼくだってこの一週間遊んでたわけじゃないぞ」
さっきよりスピードを緩めず、ぼくはランドマークへ接近する。ツバサの向きを慎重にコントロールし、何とかバランスを崩さずに通過した。差はそこまで開いていない。
「今だ、”ブースト”!」
これが三回目のブースト。この距離なら――抜ける。
「転校生、なかなかやるじゃないか。だが、これで打ち止めだ!」
リクがぼくの進路をふさぐように位置を変えた。
くそ、これじゃあ抜けない! 進路を変えようしたものの、ブースト中にうまくツバサをコントロールができず、バランスを崩してしまった。立て直そうとした瞬間、ブーストの効果が切れる。
依然として、ぼくの目の前にリクの背中があった。
「くくく、ここで抜くつもりだったのか。残念だったな。あとはターンでジワジワ差を広げさせてもらうぜ」
「……」
「どうした転校生。悔しくて声も出せないのか」
リクがニヤニヤと笑った。
三つ目のランドマークに近づくにつれ、景色は田園地帯から山岳地帯に変わる。山から吹く風の影響で気流が乱れ、より繊細なツバサのコントロールが必要となる場所だ。
ぼくは、リクのスリップストリームについたまま飛び続ける。この気流、リクの作った空気の盾から飛び出すと、バランスを崩すかもしれない。山岳地帯を抜けるまで、現状維持だ。
山の斜面に沿って高度を上げていくと、開けた場所に出る。三つ目のランドマークである大きなダムが見えてきた。
先を行くリクがターンを使いながらダムに接近する。リクはアーチ状に凹んだダムの壁面に両足をつけると、壁を勢いよくキックした。これまでよりさらに素早い方向転換だ。
ぼくはダムの壁面にぶつからないようにスピードを殺し、リクの後を追う。再び差が開いてしまった。
「転校生、勝負あったな」
「いや――これからよ」
「ああ、ソラの言う通りだ!」
最後のランドマークに向かい、ぼくたちは山岳地帯を下る。風は背後から強く吹いているようで、飛行により生じる向かい風と打ち消し合っていた。
(――つまり、ぼくにとっては無風の状態だ)
風の影響のない今なら、ツバサの繊細なコントロールは必要なく、まっすぐ飛ぶことだけに意識を集中できる。
ぼくは大きく息を吸い込み、一つのコマンドを唱えた。
瞬間、ぼくを激しい衝撃が遅い、体が前へ前へと押し出されていく。
ぼくが唱えたもの。それは、スプリントタイプだけが使える超加速のコマンド――ブーストだ。
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