5話 決戦、勝利のカギは節約術

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「四回目のブースト!? そんな馬鹿な」  リクが驚きの声を上げた。  一気にリクを抜き去ったぼくは、最後のランドマークを目指し、街の中心へ飛んでいく。 「カケル、作戦成功ね」 「ああ、ばっちりだ!」  一〇〇パーセント充電しても三回しか使えないブースト。昨日、ぼくはその回数を増やす作戦をひらめいた。  きっかけはブランコ。  激しい向かい風の中でブランコをこぐと、普段より大きな力が必要だった。ランド・セイルもこれと同じ。空気抵抗が大きい中で飛ぶと、多くのエネルギーを使う――つまり多くのバッテリーを消費しなければならない。 「そこでわたしたちが考えたのが、スリップストリームを使って空気抵抗を限りなく減らすこと。これにより、バッテリーの消費を減らし、もう一回ブーストを使える余裕を生み出したのよ!」 「その通りさ……って思いついたのはぼくだから。何自分の手柄のように自慢してるんだよ!」  ぼくは、してやったりという表情でリクを見る。  さぞ驚いていることだろ……あれ? 全然こたえてない。 「くくく……」 「なぜ笑ってる。負けることが分かり、おかしくなったのかい」 「……違うぜ。こんなことはな、スリップストリームを使いはじめた時から想定の範囲内だ」 「リクのヤツ……わたしの策に驚いたからって負け惜しみを」 「だから、ぼくが考えた策だって」 (リクの言葉は本当だろうか……)  いや、惑わされてどうする。何があろうと、全力でゴールを目指すだけだ。  山岳地帯を抜けると、建物の数が増えてきた。街の中心は近い。この先に最後のランドマーク、酉紀(とりき)城がある。 「カケル、後ろよ!」 「え?」  ソラの声に振り返ると、ぼくはギョッとした。リクがぼくの背後に幽霊のように張り付いていたのだ。 (スリップストリームにつかれている……!)  ぼくのツバサから出ている光の軌跡により、リクの表情は見えない。一瞬、光の隙間からリクの顔が現れる。大きく緩んだ口元に、ぼくの背筋がゾクリとした。 「さて転校生、どうする?」  眼下には小さな商店街が広がっている。通りに沿うように、上空を飛んでいると、この街で最も大きな建造物が見えてきた。酉紀(とりき)城の石垣だ。  スリップストリームにつかれたまま、ぼくはリクを振り切れない。スプリントタイプとのスピード差をうまく吸収されてしまっている。このままでは、ランドマークを通過する時に抜かれる! 「――これで終わりだ」  リクの静かなつぶやきが、ぼくの耳にはっきりと聞こえた。  方向転換をするためにスピードを落としたぼくの脇を、あざ笑うかのようにリクがすり抜ける――と同時に聞こえるコマンド。 「”ターン”!」  リクは最高速度で石垣へ突っ込む。  このままだと回転しながらぶつかる――そう思った瞬間、リクは垂直に立つ石垣の上を走りながら方向を転換した。そのまま石垣の端まで駆け抜け、再び空へ舞い上がった。  ぼくは唖然とする。ものすごい運動神経だ。ぼくだったら病院行きになること間違いなし。悔しいが自分にできることをするしかない。  最後のランドマークを通過した時、ぼくとリクの差は数メートル。最高速度はぼくの方が速いとはいえ、ゴールまでの距離を考えると、抜くことはできない。  リクも同じ結論に至ったのだろう。こちらを振り返り、ニヤリと笑った。 「残念だったな、転校生! よく頑張ったが、あと一歩届かずだ」 「カケル、何でもいいからリクをぶち抜きなさいっ!」  ランド・セイルのスピーカーから、ソラの叫び声が聞こえた。 (言われなくても、分かってるさ)  ランド・セイル――はじめてできたぼくをワクワクさせてくれるもの。この一週間、本気で勝つことだけを考えてきた。「負けたけどいい勝負だった」なんて結末はごめんだ。  緑の三角屋根がぼんやりと見えてくる。  このレースのゴール、酉紀小学校。いよいよ決着の時だ。
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