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「四回目のブースト!? そんな馬鹿な」
リクが驚きの声を上げた。
一気にリクを抜き去ったぼくは、最後のランドマークを目指し、街の中心へ飛んでいく。
「カケル、作戦成功ね」
「ああ、ばっちりだ!」
一〇〇パーセント充電しても三回しか使えないブースト。昨日、ぼくはその回数を増やす作戦をひらめいた。
きっかけはブランコ。
激しい向かい風の中でブランコをこぐと、普段より大きな力が必要だった。ランド・セイルもこれと同じ。空気抵抗が大きい中で飛ぶと、多くのエネルギーを使う――つまり多くのバッテリーを消費しなければならない。
「そこでわたしたちが考えたのが、スリップストリームを使って空気抵抗を限りなく減らすこと。これにより、バッテリーの消費を減らし、もう一回ブーストを使える余裕を生み出したのよ!」
「その通りさ……って思いついたのはぼくだから。何自分の手柄のように自慢してるんだよ!」
ぼくは、してやったりという表情でリクを見る。
さぞ驚いていることだろ……あれ? 全然こたえてない。
「くくく……」
「なぜ笑ってる。負けることが分かり、おかしくなったのかい」
「……違うぜ。こんなことはな、スリップストリームを使いはじめた時から想定の範囲内だ」
「リクのヤツ……わたしの策に驚いたからって負け惜しみを」
「だから、ぼくが考えた策だって」
(リクの言葉は本当だろうか……)
いや、惑わされてどうする。何があろうと、全力でゴールを目指すだけだ。
山岳地帯を抜けると、建物の数が増えてきた。街の中心は近い。この先に最後のランドマーク、酉紀城がある。
「カケル、後ろよ!」
「え?」
ソラの声に振り返ると、ぼくはギョッとした。リクがぼくの背後に幽霊のように張り付いていたのだ。
(スリップストリームにつかれている……!)
ぼくのツバサから出ている光の軌跡により、リクの表情は見えない。一瞬、光の隙間からリクの顔が現れる。大きく緩んだ口元に、ぼくの背筋がゾクリとした。
「さて転校生、どうする?」
眼下には小さな商店街が広がっている。通りに沿うように、上空を飛んでいると、この街で最も大きな建造物が見えてきた。酉紀城の石垣だ。
スリップストリームにつかれたまま、ぼくはリクを振り切れない。スプリントタイプとのスピード差をうまく吸収されてしまっている。このままでは、ランドマークを通過する時に抜かれる!
「――これで終わりだ」
リクの静かなつぶやきが、ぼくの耳にはっきりと聞こえた。
方向転換をするためにスピードを落としたぼくの脇を、あざ笑うかのようにリクがすり抜ける――と同時に聞こえるコマンド。
「”ターン”!」
リクは最高速度で石垣へ突っ込む。
このままだと回転しながらぶつかる――そう思った瞬間、リクは垂直に立つ石垣の上を走りながら方向を転換した。そのまま石垣の端まで駆け抜け、再び空へ舞い上がった。
ぼくは唖然とする。ものすごい運動神経だ。ぼくだったら病院行きになること間違いなし。悔しいが自分にできることをするしかない。
最後のランドマークを通過した時、ぼくとリクの差は数メートル。最高速度はぼくの方が速いとはいえ、ゴールまでの距離を考えると、抜くことはできない。
リクも同じ結論に至ったのだろう。こちらを振り返り、ニヤリと笑った。
「残念だったな、転校生! よく頑張ったが、あと一歩届かずだ」
「カケル、何でもいいからリクをぶち抜きなさいっ!」
ランド・セイルのスピーカーから、ソラの叫び声が聞こえた。
(言われなくても、分かってるさ)
ランド・セイル――はじめてできたぼくをワクワクさせてくれるもの。この一週間、本気で勝つことだけを考えてきた。「負けたけどいい勝負だった」なんて結末はごめんだ。
緑の三角屋根がぼんやりと見えてくる。
このレースのゴール、酉紀小学校。いよいよ決着の時だ。
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