5話 決戦、勝利のカギは節約術

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 ゴールへ向かって飛ぶ最中、ぼくはリクへ質問する。   「――今日、授業が終わった時のことを覚えているかい?」 「急に何を言ってるんだ?」 「キミはこう言った。『ずいぶん早く準備ができたようじゃないか』と」 「それがどうした。レースには負けたが、帰る準備の早さでは勝ったとでも言いたいのか?」 「そんなことを誇るつもりはないよ。準備があんなに早くできた理由をキミに教えたいんだ」  リクはいぶかしい目でぼくを見た。 「ちょっと、カケル! こんな状況で何関係ないことを話してるのよ」 「いや、これはとても重要なことなんだ――なぜなら、ぼくがこのレースに勝つ理由なのだから」  校門をくぐり抜けるため、ぼくとリクは少しずつ高度を下げていく。この先、障害物はまったくない。純粋な直線のスピード勝負だ。  ゴールまで、あと二〇〇メートル。 「なぜ帰る準備を早くできたか。その理由は簡単。帰る準備をまったくしなかったからさ」 「……転校生、何が言いたい?」 「つまり、ぼくはすべてを学校に置いてきた。教科書もノートもね」 「まさか……」  そう、ぼくの背負っているランドセルの中身は空っぽだ。  以前、ソラから聞いた言葉。  ――体重が重い人ほど、バッテリーの消費が激しいの。飛ぶために大きなエネルギーが必要だからね。 「分かったかい? ぼくにはまだ少しだけバッテリーに余裕がある。つまり――」 「ここまで来て……負けてたまるか!」  校門まで残り一〇〇メートル。ぼくはゴールに向かってまっすぐ伸びる道路へ急降下しながら、叫ぶ。 「これが正真正銘――最後の”ブースト”だっ!!」  地面スレスレの位置で加速したぼくは、道路を這うように疾走する。バッテリーはもうほとんど残っていない。ランド・セイルからの警告が響き渡り、ブーストとバッテリーがブツリと切れた。  すぐに安全装置が作動し、ぼくが着地した場所――それは校門の内側だった。 「オレの負けだ――」  振り返ると、自分の髪をクシャクシャと触るリクの姿があった。 「よしっ! 勝った……!」  ぼくは両手を空に掲げ、喜びを爆発させた。 「だがな。ランドセルを空っぽにするなんて、卑怯だ! 置き勉なんてしたら、イケちゃんに怒られるぞ」 「ふふん、問題ないよ。今から教科書とノートを取りに行くつもりだからね」  リクがぽかんと口を開けた。  ちょっとズルい作戦だったけど、スキルと経験の差があることを分かって勝負してきたリクも悪い。それにこの一週間何の努力もしなかったのなら、どんな作戦を練ったとしても勝てなかっただろう。    リクもそれに気づいたのか、ぼくを責めるのを止めた。このレースのおかげで、ぼくはスズメからツバメぐらいに進化したかな。 「これで一勝一敗だ。オレはまだ負けてないってことだよな?」 「何都合のいい解釈してんだよ!」  ぼくは思い切りリクにツッコんだ。  リクは悔しそうな嬉しそうな不思議な表情を浮かべ、ぼくに向かって手を差し出す。 「――だからカケル。また勝負しようぜ」 「まあ……いいけど」    リクの手をがっしり握った。  この瞬間、リクの中でぼくは『転校生』から『友達』にランクアップしたらしい。ぼくは「へへ」と鼻をこすった。  しばらくして、ナビゲーターを務めていたソラが戻ってきた。 「さすがわたしの一番弟子。まさかあんな作戦を考えていたとはね」 「驚いた? 『何でもいいからぶち抜け』なんて作戦より、ずいぶん知的だったでしょ」 「……ふん。ま、すべてはわたしの育て方がよかったからだね」 「だから、手柄を横取りするなって!」  ぼくがムキになって怒ると、ソラとリクが笑った。  二人が笑い続けるので、ぼくもつられて笑ってしまった。  教科書とノートを取ってきた後、ぼくたちは夕焼けの空へ向かって飛び立つ。  通学路を飛んでいると、仲良く飛ぶ三羽のツバメを見つける。  ぼくは誰にも見えないように、小さな笑みを浮かべた。
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