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「ものすごい田舎とか?」
「正解。自然が豊かで、のびのびと暮らせる街みたい」
「……スマホの電波は届くよね?」
「大丈夫じゃない? この時代に電波が届かない場所なんてないでしょ」
お母さんは能天気に笑った。
(……これは適当に言ってるな)
仕方ない、自分で引越し先について調べるか。
住む場所は田舎でも都会でもいいけど、スマホが使えないのはかんべんしてほしい。ゲームもできないし、おもしろい動画だって見れない。
「引越し先の街の名前は?」
「えっとね。たしか、酉紀町よ」
ぼくは、頭の中で街の名前を繰り返し唱えた。
自分の部屋に行こうとしたら、お母さんが「もっとカケルと話したいのに!」と駄々をこねた。
まったく、早く子離れしてくれよ。ぼくがグレても知らないぞ。
お母さんをなんとか振り切った後、自分の部屋のベッドに寝転がった。
「えっと、『と、り、き、ち、ょ、う』っと」
スマホで街の名前を検索すると、色んな情報がズラリと出てきた。
「へえ。田舎だけど、最先端のテクノロジーを実験している街なんだ」
以前学校で、全国各地に最先端テクノロジーを実験する特別地域があることを習った。どうやら、この街がそうらしい。
それならスマホの電波も問題ないだろう。ぼくはホッと安堵のため息をついた。
一体、何の実験をしているのだろうか。どんどん読み進めていくと――。
「なになに……『ランド・セイル』?」
酉紀町で実験しているのは、ランド・セイルというツバサの形をした超小型飛行デバイスらしい。
解説の動画もあったので、早速再生してみる。
「なんだこれ!」
ぼくは思わず叫んでしまった。
動画は、男の人がカバンを背負うシーンからはじまった。ぱっと見たところ普通のカバンだけど、左右にツバサの形をした機械がついている。
次の瞬間、ツバサから不思議な光が溢れて、男の人は空へ舞い上がった。そのまま鳥のように空を飛んでいく。
「……これって本物?」
まるで映画のワンシーンみたい。ぼくはベッドの上にスマホを放った。
ぼんやり天井を眺めていると、ふいに昔の記憶がよみがえってくる。
――鳥のように空を飛んでみたい!
昔の授業でみんなに語った夢。
やれやれ。こんな子どもっぽいことを言ってたのか。後から恥ずかしくなり、今まで忘れていたんだろう。
(けど、このランド・セイルという機械が実在するなら……)
心が不思議な熱を帯び、ぼくはハッとする。
首をブンブンと横に振り、すぐにいつもの冷めた自分を取り戻した。
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