6話 学校最速のチーム

2/6

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「もしこの先リクがいなくなったら、優勝する可能性はゼロになる。だから今年がラストチャンスだったの。そんな時、転校生が来ると聞いてね。わたしはそいつの才能にかけることにしたの」 「なるほど。その転校生が予想を超えたすごい才能を持っていたなんて、漫画みたいな展開だね」  ぼくが自信満々で言うと、ソラとジトっとした目でぼくをにらむ。 「――馬鹿だけど、これまでのメンバーより速いのはたしかね。クラスで三番目ってところかな」 「え、ぼくが三番目? リクに勝ったぼくが一番じゃないの?」 「おい、カケル。オレに勝てたのは実力というより、ランドセル空っぽ作戦のおかげじゃねえか」 「そうよ。まともに戦ったら、リクが一〇〇パーセント勝つ。あのコースも、直線が多くてスプリントタイプに有利なわけだし」  ぼくの中にあった自信が音を立てて崩れた。そこまではっきり言う? 「……ちょっと待て。ぼくが三番目ってことは、ソラもぼくより速いってこと?」 「そうだ。というより、ソラがオレたちの中で一番速い」 「へ?」  リクに褒められ、ソラが自慢げに、ふふんと鼻を鳴らす。 「ま、わたしでしょうね」 「……本当に? 口が悪いだけの女の子だと思ってたんだけど」 「カケル……どうやら、お灸をすえる必要がありそうね。ちょっと本気を見せてあげる」  望むところだ、とぼくは意気込んだ。ずっと一緒に練習してたからぼくには分かる。ソラの実力は精々ぼくと同じぐらいに決まってるさ。  ――十分後。 「……大変、申し訳ありませんでした」 「うむ、分かればよろしい」  本気を出したソラは圧倒的な速さで、ボコボコにやられてしまった。練習中はぼくのレベルに合わせて手を抜いてたのだ。……いつか絶対負かしてやる。 「でも、これだけ速いメンバーがそろってるなら、リレーも楽勝じゃない?」  ソラとリクが「ハア?」と眉をひそめた。ぼく何かおかしいこと言った? 「わたしとリクが速いのは、あくまで五年生に限っての話」 「そうだぜ、カケル。六年生のチームはオレたちより実力が上だ。運動会でランド・セイルのリレーをやるようになったのは三年前からだけど、ヤツらはずっと優勝している」 「上級生を押しのけて優勝したってことか。とんでもない人たちだね」 「――今年こそ、わたしたちが無敗の六年生を破って優勝する。これまで負けてきた恨みをはらしてやるんだから」  何だかすごく一方的な恨みに聞こえるぞ。 「運動会の練習が本格的にはじまるまであと少し。その時にどんなコースを飛ぶか教えてあげる」 「リクと戦ったコースとは違うんだね」 「うん。校舎やグラウンドを飛び回ることになるから、楽しみにしてて」 「りょーかい」  それから、ソラとリクの指導はさらに熱を帯び、家に辿り着く頃にはヘトヘトになっていた。でも不思議と心は元気だ。あれだけ練習した後にも関わらず、もう明日の放課後が待ち遠しい。  ベッドに仰向けになり、ぼくは苦笑する。  ――ソラの言う通り、ぼくはランド・セイル馬鹿なんだろうな。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加