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「もしこの先リクがいなくなったら、優勝する可能性はゼロになる。だから今年がラストチャンスだったの。そんな時、転校生が来ると聞いてね。わたしはそいつの才能にかけることにしたの」
「なるほど。その転校生が予想を超えたすごい才能を持っていたなんて、漫画みたいな展開だね」
ぼくが自信満々で言うと、ソラとジトっとした目でぼくをにらむ。
「――馬鹿だけど、これまでのメンバーより速いのはたしかね。クラスで三番目ってところかな」
「え、ぼくが三番目? リクに勝ったぼくが一番じゃないの?」
「おい、カケル。オレに勝てたのは実力というより、ランドセル空っぽ作戦のおかげじゃねえか」
「そうよ。まともに戦ったら、リクが一〇〇パーセント勝つ。あのコースも、直線が多くてスプリントタイプに有利なわけだし」
ぼくの中にあった自信が音を立てて崩れた。そこまではっきり言う?
「……ちょっと待て。ぼくが三番目ってことは、ソラもぼくより速いってこと?」
「そうだ。というより、ソラがオレたちの中で一番速い」
「へ?」
リクに褒められ、ソラが自慢げに、ふふんと鼻を鳴らす。
「ま、わたしでしょうね」
「……本当に? 口が悪いだけの女の子だと思ってたんだけど」
「カケル……どうやら、お灸をすえる必要がありそうね。ちょっと本気を見せてあげる」
望むところだ、とぼくは意気込んだ。ずっと一緒に練習してたからぼくには分かる。ソラの実力は精々ぼくと同じぐらいに決まってるさ。
――十分後。
「……大変、申し訳ありませんでした」
「うむ、分かればよろしい」
本気を出したソラは圧倒的な速さで、ボコボコにやられてしまった。練習中はぼくのレベルに合わせて手を抜いてたのだ。……いつか絶対負かしてやる。
「でも、これだけ速いメンバーがそろってるなら、リレーも楽勝じゃない?」
ソラとリクが「ハア?」と眉をひそめた。ぼく何かおかしいこと言った?
「わたしとリクが速いのは、あくまで五年生に限っての話」
「そうだぜ、カケル。六年生のチームはオレたちより実力が上だ。運動会でランド・セイルのリレーをやるようになったのは三年前からだけど、ヤツらはずっと優勝している」
「上級生を押しのけて優勝したってことか。とんでもない人たちだね」
「――今年こそ、わたしたちが無敗の六年生を破って優勝する。これまで負けてきた恨みをはらしてやるんだから」
何だかすごく一方的な恨みに聞こえるぞ。
「運動会の練習が本格的にはじまるまであと少し。その時にどんなコースを飛ぶか教えてあげる」
「リクと戦ったコースとは違うんだね」
「うん。校舎やグラウンドを飛び回ることになるから、楽しみにしてて」
「りょーかい」
それから、ソラとリクの指導はさらに熱を帯び、家に辿り着く頃にはヘトヘトになっていた。でも不思議と心は元気だ。あれだけ練習した後にも関わらず、もう明日の放課後が待ち遠しい。
ベッドに仰向けになり、ぼくは苦笑する。
――ソラの言う通り、ぼくはランド・セイル馬鹿なんだろうな。
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