6話 学校最速のチーム

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「せっかくだし、一緒にコースを回らないか? カケルくんははじめてなんだし、ぼくが詳しく案内してあげるよ」  ハヤトが優しい笑みを浮かべた。まさに理想のお兄さん。ああ、ソラもこういう性格だったらな。  ソラが眉をひそめて答える。 「親切なフリしてるけど、カケルの実力を推し量ろうって魂胆でしょ? いいわ。見せてあげる。ただし、そっちの手の内もさらしてもらうよ。コソコソ何か準備しているのを知ってるんだからね」 「あらソラさん。コソコソとは人聞きの悪い。隠すつもりなんかありませんわよ。ぜひ、わたくしたちの新しい武器を御覧になってください」  マイは、いかにもお嬢様らしく「オホホ」と笑った。  ダイチが両手の拳をガツンと合わせる。 「早速見せてやるぜ。まずは一走目のオレからだな。お前たちの一走目は――いつも通りリクか」 「ああ、そうだ。今年は去年までのオレと違うぜ」 「相変わらず生意気なヤツだな。今から叩き潰してやろうか?」  血の気の多そうな者同士の対決だ。こういうタイプは苦手だったので、ぼくの相手じゃなくてよかった。 「ダイチ、あまり飛ばし過ぎるなよ。カケルくんにコースを紹介するのが目的だからね」 「ああ、分かってるぜ」  ぼくたちは一斉に”フライ”と唱え、少しスピードを落としながらグラウンドを進む。向かう先は校舎の入口。 (もしかして、校舎の中を飛ぶの!?)  狭い上に、放課後とはいえ生徒もいるかもしれない。大丈夫だろうか。ぼくの不安に気づいたのか、ハヤトがクスクスと笑う。 「運動会までの間、このコースはリレーの選手だけに解放されているから、事故を起こす心配はしなくていいよ」 「安心しました」  ぼくはホッと息をついた。 「狭い場所を飛ぶのははじめてかい?」 「……こんなに入り組んだ場所を飛ぶのははじめてです」 「スラロームタイプの真価は、こういうコースでこそ発揮される。よく見ておくといい」  校舎の中に突入したぼくたちは、廊下を曲がりながら飛んでいく。すべて九〇度以上の鋭いコーナー。ぼくはついていくのがやっとだが、みんなは苦もなさそうだ。この中では、ぼくが一番未熟ってことか。 「リク。この狭いコースをそこまでスムーズに飛べるのは、単にテクニックだけじゃないな。スラロームタイプにカスタマイズしたのか?」 「ああ、アンタと同じだ。これで、スペック上は同じになったぜ」 「――果たしてそうかな?」  突き当りに昇り階段が見えてきた。折れ階段になっており、上の階へ行くには、一八〇度の方向転換が必要になる。ここまで急なコーナーは曲がったことがない。  先頭を行くダイチが振り返る。 「マイ、早速試させてもらうぜ!」 「ええ、使いこなしてみなさい」  ダイチはニヤリと笑った。  そして本番さながらに加速し、大きな声を上げる 「”ドリフトターン”!」  瞬間、ダイチの片方のツバサの光が、急激に大きくなる。リクがターンを使った時の比じゃない。ダイチの体が一瞬で一八〇度回転し、背後を飛んでいたぼくたちと目が合った。そしてすぐに上階へ姿を消す。 (さっきのはコマンド? けど……)  ターンよりさらに鋭い方向転換だった。そもそも、あんな名前のコマンドは聞いたことがない。  ぼくたちはダイチの後を追い、階段を昇る。そのまま廊下をまっすぐ抜けて、ベランダから外へ飛び出した。  校舎の上空、ダイチが不適な笑みを浮かべ、ぼくたちを待っていた。 「遅かったな。ここまでが一走目だ」  ソラがマイをキッとにらみつける。   「さっきのは『オリジナルコマンド』ね」 「ご明察。わたくしたちが開発したダイチ専用のコマンドですわ」 「さっきオレが使ったのは『ドリフトターン』。このコマンドは、通常のターンより多くのエネルギーを消費することで、超高速の方向転換が可能だ」  開発しただって? ぼくは疑問に思い、ソラに聞く。 「……コマンドって、自分で作れるものなの?」 「技術的には可能よ。ただし、プログラマーでもなければ作るのは不可能ね。小学生なんかじゃ絶対無理」 「ええ。だから『わたくしたち』と言ったでしょ? パパの会社のエンジニアの方に少しお手伝い頂いたの。わたくしたち三人が、卒業するまで無敗という歴史を作るためにね」 「――というわけさ、ソラ。ぼくたちはあらゆる手を尽くし、完璧な勝利を手に入れる。今日はその覚悟をしっかり見ていくといい」  ハヤトがふわりと笑った。その笑顔の奥には、とても強い意志が隠されていたことを知った。
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