3人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
ソラはうつむき、肩をわなわなと震わせた。
(もしかして、すごく怒ってる……?)
と思っていたら、逆にソラは高らかに笑った。
「――上等じゃない! オリジナルコマンド? 大いに結構よ。本番で必ず破ってやる」
ソラは六年生たちに向かってビシッと言い放った。リクがそれに続く。
「そうだな。本番まで時間はある。オレたちはこれからまだまだ速くなれる」
「及ばずながら、ぼくも全力を尽くす。伸びしろは一番あるだろうからね」
校舎の上空で、ぼくたち五年生チームと六年生チームは向かい合った。
――オレたちの方が速い。
きっと全員がそう思っている。
「キミたちがどこまでやれるか、楽しみにしてるよ。マイ、二走目の案内を頼む」
「分かりましたわ。そちらの二走目は――やはりソラさんですか?」
「ええ、マイ。今年も勝負よ」
「あらー、わたくしのことはお姉さんと呼んでくれていいのよ?」
……ここも恐ろしい対決になりそうだ。
ぼくたちはそのまま校舎を離れ、学校の敷地と外の境界まで移動する。
「二走目は、学校の周囲を巡るコース。敷地の外を一周すればいいから、学校のフェンスに沿って飛ぶのが最短距離となる。でもね。角を曲がる時に減速することを考えたら、正解のルートは違う」
「……円ですか」
「その通りだよ、カケルくん。円を描くように飛ぶのがもっとも速い。キミはなかなか筋がいいね。ソラが入れ込むのも分かる」
ハヤトがうれしそうに笑った。
(入れ込んでいる理由は、リレーに勝ちたいという自分自身の欲望のためですが……)
ぼくたちは学校の周囲を時計の針のように回る。こういう直線でも曲がりくねってもないコースの場合、ノーマルタイプが有利に違いない。
マイはオリジナルコマンドを使わなかったが、一切の無駄がない美しい飛び方だった。ソラもうまいが、マイと比べると粗が目立つ。このコースでは純粋なテクニックが勝敗のカギとなるだろう。
「これで二走目はお終い。最後はハヤト、頼みましたわよ」
「ああ、任せてくれ」
学校の周囲を一周して戻ってきた後、案内役がマイからハヤトへとバトンタッチした。
いよいよ――三走目。ぼくが飛ぶことになるコースだ。
「カケルくん、最後はグラウンドの上空を飛ぶ、超高速コースだ。スプリントタイプの特徴を最大限に活かすことができるよ。ぼくやキミのようなね」
ぼくがスプリントタイプであることは話していない。ダイチがリクのカスタマイズを見破ったように、一緒に飛んだ時の様子から判断したのか。さすがリレーの優勝チーム、恐ろしい洞察力だ。
「まず、一周二〇〇メートルのトラックを回りながら、高度を上げていく。二周する間に高度ニ〇〇メートルに到達するのが目標だ」
「トラックを二周する間に、二〇〇メートルの高さまで昇る……」
何だか複雑だぞ。ぼくが眉間にしわを寄せていると、ハヤトがクスクスと笑う。
「安心して。本番はチームのみんながナビゲーターをしてくれる。どういう状況かはソラたちが逐一教えてくれるさ」
「それなら良かったです」
ぼくはホッとした。飛ぶことだけに集中できるのはありがたい。
「その後は一気に急降下し、スタート地点に戻ればゴールだ。分かったかい?」
「はい。ありがとうございます」
「それじゃあ、ついておいで!」
ハヤトが飛び出すと同時に、ぼくも飛び出した。
トラックを回りながら、高度を上げていく。遠くから見ると、ランド・セイルから出た光の軌跡が、螺旋階段のように見えるだろう。
(このコースの場合……どこでブーストを使うのがよいだろうか)
水平に飛びながらブーストを使うと、勢い余ってグラウンドから出てしまうだろう。けど、このコースでは斜め上に向かって飛ぶ。つまり水平飛行時より飛ぶ距離は長い。とすると――、
「”ブースト”!」
バックストレートに入った瞬間、コマンドを唱えて加速したぼくは、ハヤトを抜き去る。
予想通り、ブーストが切れてもグラウンドの外へは飛び出なかった――が、トラックからは大きく外れてしまった。
ブーストを使って加速したとしても、無駄な距離を飛ぶことになるだろう。
一体どうすれば……。
最初のコメントを投稿しよう!