6話 学校最速のチーム

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 ソラはうつむき、肩をわなわなと震わせた。 (もしかして、すごく怒ってる……?)  と思っていたら、逆にソラは高らかに笑った。 「――上等じゃない! オリジナルコマンド? 大いに結構よ。本番で必ず破ってやる」    ソラは六年生たちに向かってビシッと言い放った。リクがそれに続く。 「そうだな。本番まで時間はある。オレたちはこれからまだまだ速くなれる」 「及ばずながら、ぼくも全力を尽くす。伸びしろは一番あるだろうからね」  校舎の上空で、ぼくたち五年生チームと六年生チームは向かい合った。  ――オレたちの方が速い。  きっと全員がそう思っている。 「キミたちがどこまでやれるか、楽しみにしてるよ。マイ、二走目の案内を頼む」 「分かりましたわ。そちらの二走目は――やはりソラさんですか?」 「ええ、マイ。今年も勝負よ」 「あらー、わたくしのことはお姉さんと呼んでくれていいのよ?」  ……ここも恐ろしい対決になりそうだ。  ぼくたちはそのまま校舎を離れ、学校の敷地と外の境界まで移動する。 「二走目は、学校の周囲を巡るコース。敷地の外を一周すればいいから、学校のフェンスに沿って飛ぶのが最短距離となる。でもね。角を曲がる時に減速することを考えたら、正解のルートは違う」 「……円ですか」 「その通りだよ、カケルくん。円を描くように飛ぶのがもっとも速い。キミはなかなか筋がいいね。ソラが入れ込むのも分かる」  ハヤトがうれしそうに笑った。 (入れ込んでいる理由は、リレーに勝ちたいという自分自身の欲望のためですが……)  ぼくたちは学校の周囲を時計の針のように回る。こういう直線でも曲がりくねってもないコースの場合、ノーマルタイプが有利に違いない。  マイはオリジナルコマンドを使わなかったが、一切の無駄がない美しい飛び方だった。ソラもうまいが、マイと比べると粗が目立つ。このコースでは純粋なテクニックが勝敗のカギとなるだろう。 「これで二走目はお終い。最後はハヤト、頼みましたわよ」 「ああ、任せてくれ」  学校の周囲を一周して戻ってきた後、案内役がマイからハヤトへとバトンタッチした。  いよいよ――三走目。ぼくが飛ぶことになるコースだ。 「カケルくん、最後はグラウンドの上空を飛ぶ、超高速コースだ。スプリントタイプの特徴を最大限に活かすことができるよ。ぼくやキミのようなね」  ぼくがスプリントタイプであることは話していない。ダイチがリクのカスタマイズを見破ったように、一緒に飛んだ時の様子から判断したのか。さすがリレーの優勝チーム、恐ろしい洞察力だ。 「まず、一周二〇〇メートルのトラックを回りながら、高度を上げていく。二周する間に高度ニ〇〇メートルに到達するのが目標だ」 「トラックを二周する間に、二〇〇メートルの高さまで昇る……」  何だか複雑だぞ。ぼくが眉間にしわを寄せていると、ハヤトがクスクスと笑う。 「安心して。本番はチームのみんながナビゲーターをしてくれる。どういう状況かはソラたちが逐一教えてくれるさ」 「それなら良かったです」  ぼくはホッとした。飛ぶことだけに集中できるのはありがたい。 「その後は一気に急降下し、スタート地点に戻ればゴールだ。分かったかい?」 「はい。ありがとうございます」 「それじゃあ、ついておいで!」  ハヤトが飛び出すと同時に、ぼくも飛び出した。  トラックを回りながら、高度を上げていく。遠くから見ると、ランド・セイルから出た光の軌跡が、螺旋階段のように見えるだろう。 (このコースの場合……どこでブーストを使うのがよいだろうか)  水平に飛びながらブーストを使うと、勢い余ってグラウンドから出てしまうだろう。けど、このコースでは斜め上に向かって飛ぶ。つまり水平飛行時より飛ぶ距離は長い。とすると――、 「”ブースト”!」  バックストレートに入った瞬間、コマンドを唱えて加速したぼくは、ハヤトを抜き去る。  予想通り、ブーストが切れてもグラウンドの外へは飛び出なかった――が、トラックからは大きく外れてしまった。  ブーストを使って加速したとしても、無駄な距離を飛ぶことになるだろう。  一体どうすれば……。
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