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背後からハヤトに声をかけられる。
「気づいたようだね。このコースはブーストを使うタイミングがすごく難しい。ブーストを使った結果、今のカケルくんのように大きくトラックから外れると、意味がないからね。だからぼくが考えた対策がコレ――」
ハヤトはトラックの上空に戻ると、再び周回をはじめ、バックストレートに入ると同時にブーストを使った。
ぼくと変わらないじゃないか。そう思っていたが、結果は全く違うものになる。
(ブースト中の方向転換……!)
ハヤトはブースト中にもかかわらず、カーブに沿うように飛んだのだ。普通ならまっすぐ飛ぶのが精一杯で、方向を変える余裕なんてない。けど、ハヤトは涼しい顔で、それをやってのけた。
(この人に勝たない限り、優勝ができないなんてね)
背筋がゾクゾクした。決して怖がっているわけじゃない。武者震いってヤツだ。
ハヤトを追いかけていると、ソラが隣に並ぶ。
「カケル。今ので驚いてちゃダメよ」
「どういうこと?」
「このテクニックは去年も見た。あの女の口ぶりから察すると、今年はさらにとんでもないことをしてくるはずよ」
ソラの視線の先にはマイの姿があった。マイはぼくたちと目が合うと、意味深な笑みを浮かべた。
ハヤトが、ふうと小さなため息をつく。
「……ソラ、せっかくカケルくんを驚かそうと思ったのに。そこは黙っておいてくれないと」
「お兄ちゃんはいつもニコニコしてるクセに、わたしよりうんと性格が悪いんだから」
「手厳しいね。先ほどのテクニックは、体への負担が大きく、少しツバサのコントロールをミスしただけで、大きなタイムロスとなる」
ハヤトが両手を広げて、ぼくたちに宣言する。
「さあ、五年生のみんな。よく見ておくといい。これが、ぼくの新しい武器だ」
ハヤトは笑顔を封印し、するどい目で空の彼方を見つめた。
再びトラックの上空を回りはじめると、それが発動する。
「”クイックブースト”!」
聞いたことがないコマンドを唱えたハヤトは、バックストレートをブーストのように加速していく。
さっきと同じじゃないの? そう思っていたら、コーナーに差し掛かった瞬間に加速が終わった。ブーストと比べると、加速時間が短い。
「これがぼくのオリジナルコマンド『クイックブースト』さ。通常のブーストより加速する時間を短く設定しているから、必要な距離だけを加速できる。もちろん使い道は、直線だけじゃないよ。コーナーだってこんな風に――」
ハヤトは再びクイックブーストを使い、コーナーの真ん中までまっすぐ飛んだ。すぐにもう一度加速し、コーナーを脱出する。カーブに沿って飛ぶのではなく、『く』の字を描くように飛んだのだ。短時間の加速という特性を最大限に活かしている。
気づけばハヤトはあっという間に上空ニ〇〇メートルに到達していた。見上げた先、彼が飛んだ軌跡が光輝く。それは美しい六角形だった。
「どうだい、驚いてくれたかな?」
ハヤトはぼくたちを見下ろしながら、笑みを浮かべた。
何も答えられないぼくたちを見て、ハヤトは満足げにうなずく。
「あとはここから、スタート地点まで急降下すればゴール。案内はこれで終わりだよ」
「……ありがとうございました。ぼくたち五年生の実力は把握できましたか?」
ぼくは何とか声を絞り出し、酉紀小学校で一番速い男に聞いた。
「今のままなら、ぼくたちの優勝は揺るがない。楽しい勝負になることを願ってるよ」
ハヤトはさわやかに答えた。そして、ダイチとマイと共にグラウンドから飛び去る。
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