6話 学校最速のチーム

6/6

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
 背後からハヤトに声をかけられる。 「気づいたようだね。このコースはブーストを使うタイミングがすごく難しい。ブーストを使った結果、今のカケルくんのように大きくトラックから外れると、意味がないからね。だからぼくが考えた対策がコレ――」  ハヤトはトラックの上空に戻ると、再び周回をはじめ、バックストレートに入ると同時にブーストを使った。  ぼくと変わらないじゃないか。そう思っていたが、結果は全く違うものになる。 (ブースト中の方向転換……!)  ハヤトはブースト中にもかかわらず、カーブに沿うように飛んだのだ。普通ならまっすぐ飛ぶのが精一杯で、方向を変える余裕なんてない。けど、ハヤトは涼しい顔で、それをやってのけた。 (この人に勝たない限り、優勝ができないなんてね)    背筋がゾクゾクした。決して怖がっているわけじゃない。武者震いってヤツだ。  ハヤトを追いかけていると、ソラが隣に並ぶ。 「カケル。今ので驚いてちゃダメよ」 「どういうこと?」 「このテクニックは去年も見た。あの女の口ぶりから察すると、今年はさらにとんでもないことをしてくるはずよ」  ソラの視線の先にはマイの姿があった。マイはぼくたちと目が合うと、意味深な笑みを浮かべた。  ハヤトが、ふうと小さなため息をつく。 「……ソラ、せっかくカケルくんを驚かそうと思ったのに。そこは黙っておいてくれないと」 「お兄ちゃんはいつもニコニコしてるクセに、わたしよりうんと性格が悪いんだから」 「手厳しいね。先ほどのテクニックは、体への負担が大きく、少しツバサのコントロールをミスしただけで、大きなタイムロスとなる」  ハヤトが両手を広げて、ぼくたちに宣言する。 「さあ、五年生のみんな。よく見ておくといい。これが、ぼくの新しい武器だ」  ハヤトは笑顔を封印し、するどい目で空の彼方を見つめた。  再びトラックの上空を回りはじめると、それが発動する。 「”クイックブースト”!」  聞いたことがないコマンドを唱えたハヤトは、バックストレートをブーストのように加速していく。  さっきと同じじゃないの? そう思っていたら、コーナーに差し掛かった瞬間に加速が終わった。ブーストと比べると、加速時間が短い。 「これがぼくのオリジナルコマンド『クイックブースト』さ。通常のブーストより加速する時間を短く設定しているから、必要な距離だけを加速できる。もちろん使い道は、直線だけじゃないよ。コーナーだってこんな風に――」  ハヤトは再びクイックブーストを使い、コーナーの真ん中までまっすぐ飛んだ。すぐにもう一度加速し、コーナーを脱出する。カーブに沿って飛ぶのではなく、『く』の字を描くように飛んだのだ。短時間の加速という特性を最大限に活かしている。  気づけばハヤトはあっという間に上空ニ〇〇メートルに到達していた。見上げた先、彼が飛んだ軌跡が光輝く。それは美しい六角形だった。 「どうだい、驚いてくれたかな?」  ハヤトはぼくたちを見下ろしながら、笑みを浮かべた。  何も答えられないぼくたちを見て、ハヤトは満足げにうなずく。 「あとはここから、スタート地点まで急降下すればゴール。案内はこれで終わりだよ」 「……ありがとうございました。ぼくたち五年生の実力は把握できましたか?」  ぼくは何とか声を絞り出し、酉紀(とりき)小学校で一番速い男に聞いた。 「今のままなら、ぼくたちの優勝は揺るがない。楽しい勝負になることを願ってるよ」  ハヤトはさわやかに答えた。そして、ダイチとマイと共にグラウンドから飛び去る。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加